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ストーカー(1-4)

「橘く、ん……、怒ってる、の……?」 恐る恐る俺の首に腕を回しながら、震える声で片宮がそんなことを聞く。 「怒ってねぇよ」   怒ってないけどさ、本当だったら怒られても仕方ないことをお前はやってんだぞ。 ストーカーはダメなことっていう認識が、コイツにはないのだろうか。 「じゃ、何で……、僕を連れてくの……?」 「お前が泣き止まないから俺ん家に連れて行くんだよ! 道であんなふうに泣かれたら色々と困るだろ? 話だって聞かなきゃいけないんだし、いつまでも泣かれてたら迷惑なんだよ」 「ごめ、ん、なさい、」 片宮がそう小さく声を漏らした。 ストーカーしてるくせに、俺に抱きつくのは遠慮がちなんだな。 何なのコイツ。調子狂うじゃん。 俺はなんだか少しだけ可哀想に思ったから、優しく頭を撫でた。 「だから、連れて行かれたくなかったら泣きやめ。な?」 「う、うぁ……、ひっ……く、」 俺はバカなことを考えたわ。コイツはストーカーなんだよ。家に行けるものなら行きたいに決まってるだろう。 「分かったから。泣き止んでも連れて行くから。わざとおっきな声で泣くのやめてくんねぇ?」 「分かった……、泣き止んだよ」 へへっと、片宮が笑う。 「うん、もうそれでいいわ」 「橘くん家、楽しみ」 「お前、今日家を覚えたからってこれから家まで来るなよ」 「……もう、家なら知ってるもん」 「……。」 うん、さすが。そりゃそうだよな、付けて来てるんだから知ってるよな。 「はぁーっ、」 俺は、片宮に聞こえるように、思いっきり溜め息をついてやった。

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