94 / 224
ストーカー(1-4)
「橘く、ん……、怒ってる、の……?」
恐る恐る俺の首に腕を回しながら、震える声で片宮がそんなことを聞く。
「怒ってねぇよ」
怒ってないけどさ、本当だったら怒られても仕方ないことをお前はやってんだぞ。
ストーカーはダメなことっていう認識が、コイツにはないのだろうか。
「じゃ、何で……、僕を連れてくの……?」
「お前が泣き止まないから俺ん家に連れて行くんだよ! 道であんなふうに泣かれたら色々と困るだろ? 話だって聞かなきゃいけないんだし、いつまでも泣かれてたら迷惑なんだよ」
「ごめ、ん、なさい、」
片宮がそう小さく声を漏らした。
ストーカーしてるくせに、俺に抱きつくのは遠慮がちなんだな。
何なのコイツ。調子狂うじゃん。
俺はなんだか少しだけ可哀想に思ったから、優しく頭を撫でた。
「だから、連れて行かれたくなかったら泣きやめ。な?」
「う、うぁ……、ひっ……く、」
俺はバカなことを考えたわ。コイツはストーカーなんだよ。家に行けるものなら行きたいに決まってるだろう。
「分かったから。泣き止んでも連れて行くから。わざとおっきな声で泣くのやめてくんねぇ?」
「分かった……、泣き止んだよ」
へへっと、片宮が笑う。
「うん、もうそれでいいわ」
「橘くん家、楽しみ」
「お前、今日家を覚えたからってこれから家まで来るなよ」
「……もう、家なら知ってるもん」
「……。」
うん、さすが。そりゃそうだよな、付けて来てるんだから知ってるよな。
「はぁーっ、」
俺は、片宮に聞こえるように、思いっきり溜め息をついてやった。
ともだちにシェアしよう!