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ストーカー(2-8)
橘くんの真剣な瞳が僕を捉える。
今日はもう顔が見られないと思ってたから、こうやって来てくれたことが嬉しい。
だけど、そう思ったのも一瞬だけ。
そんな呑気なことを考えた自分がおかしくなる。
会いに来てくれるなんて、あるはずもないのに。
ねぇ、僕に言いに来たんでしょう?
もう付きまとうなって。
「片宮、話がある」
そうやって話を切り出した橘くんから、僕は目を逸らした。
次に言われるであろう一言が、怖くて仕方がない。
「言わなくて、も……、だ、大丈夫、だよ……。もう、やめる。橘くん、に、もう……付きまとわない、から……」
言われなくても分かってるよ。
ちゃんと、分かってる。だから、お願いだよ橘くん。
あなたの口から、その言葉を言わないで。
「違う! 昨日の見てたんだろ? ちゃんと話すから俺の話聞いて」
「や、だ……、聞きたくないよっ」
心が、壊れてしまう。
「片宮!」
耳を塞いで首を横に振った。
絶対に聞きたくないからって、必死に。
だけどその時、突然目の前が真っ暗になった。
感じるのは温かな温もり。それから、橘くんの優しい香り。
僕、抱きしめられてるの……?
「保健室でうるさくすんのもアレだから、屋上行くぞ」
「ひっ……く」
抵抗したいのにできない。
この手は、昨日、違う人を抱きしめてた。僕じゃない誰かを、抱きしめてた。
でも、でもね……。
僕は、泣きながら、橘くんの背中にゆっくりと手を回した。
橘くんが、僕を抱きしめてる。
大切に、でも力強く。
ずっと、こうして欲しかった。
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