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ストーカー(2-10)

「昨日のは俺の意思じゃねぇから。諦めるから最後に抱きしめてって言われただけ」 「……っ」 「嫌だったろ? 俺もすっげぇ嫌だった。お前じゃない誰かを抱きしめることが。高木を抱きしめてる時だって、頭ん中お前でいっぱいだった」 「たちばなくん……」 抱きしめる力を弱め、片宮の顔をのぞき込むと、さっきよりも涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。 嬉しいって、小さく呟く片宮がたまらなく愛しい。 今は嬉し涙なのかなって、そう思ったら、なんだか気持ちがほっこりしてきた。 俺のことを思って悲しくて泣くくらい、俺の一言で嬉し涙を流すくらい、俺のこと好きってことだろ? ねぇ、片宮。お前、可愛いな。 本当に本当に、可愛くてたまらない。 俺はポケットから昨日買ったネックレスを取り出した。 それから片宮の首に腕を回し、それをつける。 一瞬驚いた顔を見せたけど、何か分かった片宮は、きゅうっと俺のシャツを掴んだ。 その手が、震えてる。 「指輪は学校じゃ付けれねぇからネックレスにした。俺と同じやつ」 ほら、と首もとを見せると、片宮は口をきつく結んで、眉根を寄せた。 泣くのを我慢してるみたいに。  それでもどんどん涙は溢れてるんだけど。 でも、その後、満面の笑みを向けてくれた。 やっと、今日、片宮の笑顔が見れた。 「お前は一生俺だけのストーカーやってろ」 「うん……」 へにゃっと笑った片宮に、今度は深いキスをした。 次の日から俺のストーカーは、俺の隣を歩くようになった。 「橘くん、僕ずっと離れないからね」 「ばーか。俺も離してやんねーよ」   END

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