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はっきりしろよ(1)
先月にあったイベント、バレンタインは、散々だった。
思い出すだけでも、胸が痛くなる。
俺が片思いをしている立川が、トリュフ好きだって聞いたから。パソコンで作り方を調べて、わざわざ作ったのに。
『どうせお前はチョコもらえないだろうから、俺の作ったチョコあげてやってもいいよ』
可愛くない言い方をしてしまったからだろうか。
『は? 頼んでねぇし』
一言冷たくそう言われて、頑張って作ったチョコは受け取ってもらえなかった。
恥ずかしかったよ。
女子から男子にチョコを渡すのが一般的なバレンタインデーに、俺は立川に手作りチョコを渡そうとしたんだから。
俺がどんな思いで作っただとか、アイツはちっとも考えてくれなかったんだ。
まぁ、まさか本命チョコとは思わないだろうから、仕方がないことなのかもしれないのだけれど。
だから、今日のホワイトデーは、この間のバレンタインデーのリベンジだ。
今度こそ、立川に受け取って欲しいな。
俺はひとまず、バレンタインにチョコをくれた女子にお礼をしに回った。
手作りだと分かると、みんな嬉しそうに笑ってくれた。
なんだか今日はいい気がするぞ。
立川も、もらってくれるかもしれない。
いや、もらってもらわなきゃ困るんだけど。
俺は女子にお返しをし終わると、すぐに立川のところへ行った。
机の横に立てば、俺の気配に気づいてか、立川が俯いていた顔を上げた。
寝癖かな。少しだけ前髪が跳ねている。
いつもは冷たい立川だけど、この寝癖は可愛く見えた。
緊張してたけど、寝癖で少し気持ちが和んだな。
そう思いながら、俺は特別にラッピングしたチョコを、立川の目の前に突き出した。
よし、今日こそはチョコを渡すんだ。
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