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はっきりしろよ(4)
*
「た、立川のばかっ」
誰もいない屋上で、一人チョコを握りしめる。
握りしめているせいで、少しだけリボンがぐちゃぐちゃになっていた。
「作ってやったんだから、受け取ればいいのに!」
くそ。アイツのために、泣くのが悔しい。
俺ばっかこんな想いをしなきゃいけないのが悔しい。
俺はきれいにラッピングしていたそのチョコを、コンクリートに叩きつけた。
リボン一つにしても、あんなに悩んだ俺がバカみたいじゃないか。
中のチョコが、砕ける音がする。
その度に胸が痛くなるけど、俺は何度もコンクリートに叩きつけた。
「余りじゃないし!」
「立川に作ったんだし!」
「女子のほうが余りみたいなもんだし!」
チョコも、俺の心もぐちゃぐちゃだよ。
「ふ、ぅ……っ」
だってさ。
普通にチョコあげるって言ったら、気持ち悪いって思うだろう?
何て言えばもらってくれたの?
それとも、どんな言い方でもダメだった?
「立川の、ばかっ」
「ばかぁ」
悔しい。
悔しい。
悔しいっ。
俺の想いは、立川には全然届かない。
「ばかはお前だろ」
「え……」
最後に叩きつけた時、勢いよく屋上のドアが開く音がした。
振り返る前に、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
誰かなんて見なくても分かるよ。大好きな立川だって。
「俺に作ったならそう言えよ」
「……っ」
「お前分かりにきーよ本当」
「……うぁ、」
「泣くなばか。どーしていいか分かんなくなる」
立川は無理矢理俺を自分の方に向かせると、ブレザーの裾でゴシゴシと涙を拭いた。
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