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はっきりしろよ(5)
「痛い」
立川を見つめ文句を言うと、むにっとほっぺをつままれた。
「文句言うな」
そう言って怒るけど、さっきまでとは違う。
表情は、とても優しい。
何なの。すっごいドキドキするじゃん。
「ばか」
小さく声を漏らすと、立川がニヤリと笑った。
「だからばかはお前だって。そのチョコよこせ」
そして、俺の目元を拭くのをやめると、握っていたチョコに手を伸ばしてきた。
俺は、取られたくなくて、慌てて後ろに隠した。
「いやだ、」
「はぁ?」
「一回いらないって言った奴に、やるチョコなんか、ない」
それでもチョコを取ろうとしてくる立川。
俺は、それを隠すようにしてうずくまった。
だって、これはもう、あげられない。
立川に喜んで欲しくて作ったチョコは、さっきコンクリートに叩きつけてぐちゃぐちゃにしてしまったから。
ラッピングだって汚くなった。
形の崩れたのなんかあげられないよ。
でも、そんなことを考えているのがバレたみたい。
「だからお前は分かりにくいってば」
立川は無理矢理俺からチョコを奪った。
「ばっか!」
慌てて手を伸ばすも、取り返すことはできない。
目の前にはにやって笑う立川。
「俺への愛がこもってんならいい」
そう言って、ぐちゃぐちゃになったリボンを解き、ぐちゃぐちゃになった袋を開けて、ぐちゃぐちゃになったチョコを立川が口に運ぶ。
「うまい、てか、あまい」
「……っ」
「お前の俺に対する気持ちもコレと同じでいいんだよな?」
さらっと恥ずかしいことを言う立川を見上げると、今まで見たことないくらい優しい顔をしていた。
悔しい、本当に悔しい。
何でいつも余裕で、俺ばっかドキドキして。
でも、そんな立川が好きだから。
立川の言葉に何度もうなずくと 、
“俺、チョコ準備してないからお返しはコレな”
そう言って、甘い甘いキスをされた。
END
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