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遠距離恋愛(1)

授業中、ちょっと休憩しようということで、先生が昔の自分の恋愛話を聞かせてくれた。 遠距離恋愛をしていたらしいのだが、同じアパートで隣に住んでいた女の人と仲良くなったことをきっかけに、彼女とは少しずつ連絡を取らなくなったらしい。 それからその隣人の女の人のことを好きになり、付き合っていた彼女と別れたとのこと。 そして結局、その隣人さんと結婚したらしい。   その話を聞いて、クラスのみんなは先生に対してブーイングを浴びせた。 彼女に対してあまりにも失礼だとか、最低だとか。 そんな中、みんなの声を聞きながら、ふとあることを疑問に感じた。 …先生は、彼女のことをどれくらい好きだったのだろう? 大好きで大好きでたまらなかったのに、それでも気持ちがなくなってこうなってしまったのか。 それとも、元々大して好きでもなかったのだろうか。 俺には、離れているからといって、付き合っている人ではなく、違う誰かを好きになるということが、よく理解できなかった。 離れていても大好きだったら、ずっと大切なんじゃないのかな。 俺が、そう思っているだけなの? 「うっわ、先生って本当最低!」 「有り得ねぇ!!」 突然、みんなの声が大きくなった。 ぼんやりと考えていた俺も、慌てて前を見る。 「……っ、」 見えたのは、へらへらと笑う先生。 そして、白いチョークで黒板に書かれた文字。 『遠くの一番より近くの二番』 ぐさりと、見えない何かに心臓を刺されたような、そんな気持ちになった。 ……近くの二番? 「遠距離は無理だってば。近くにいい人見つけたらさ、その人に気持ちがいっちゃうんだよ」   「もー、最悪ー!」 「はいはい、休憩終わり!授業始めるぞ!」 パンパンと手を叩いて、授業へと気持ちを向けるように先生が促す。 相変わらず先生は笑っていたけれど、俺にはそんな余裕がなかった。

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