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クリスマスイブ(1)
「諏訪部さんのばか」
連絡の来ない携帯の画面を見つめながらため息をついた。
早く帰ってくるねって、そう言っていたのに。
「嘘つき」
時計の針は、もう十時を指している。
諏訪部さんは隣の部屋に住んでいる会社員。
大学生になったばかりで料理も何もできない俺に、ご飯を作ってくれたりと、とてもよくしてくれて。
それがきっかけで仲良くなり、もうすぐで知り合って二年になる。
諏訪部さんは俺よりも十歳年上で、知らないこともたくさん知っているし、頼りがいのある優しい人だから。
色々な場面で自分にはない大人の魅力を感じるわけで。
気が付いたら、諏訪部さんのことを意識するようになっていた。
だから大好きな諏訪部さんに『クリスマスイブはどうせ過ごす人いないし……。桜井君さえよければ一緒に過ごそう』って言われた時は、飛び上がるくらい嬉しかった。
それなのに。
今、諏訪部さんの帰りを待つ俺は憂鬱でならない。
『崇宏、これなんかどうかしら?』
『あぁ! それもいいね。あ、由美子、これは?』
昨日、諏訪部さんへのクリスマスプレゼントを買いに行ったんだ。
奮発してお洒落なネクタイでも買おうかな、なんてそんなことを考えながら。
だって、日頃からすごくお世話になっているし、何より喜んでる顔が見たかったから。
だけど、そのデパートに買いに行ったことをすぐに後悔した。
ネクタイを選んでいた俺の視界に入って来たのは、親しそうな雰囲気の諏訪部さんと知らない女性。
二人があまりにも似合いすぎていて、俺の手から選んだネクタイが滑り落ちた。
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