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クリスマスイブ(3)
「遅くなってごめんね。ばかな上司がイブに予定のある俺に嫉妬したのか、大量に仕事を押しつけられてさ、」
「すわ……べ、さ……」
「あーあ、もう……。こんなに泣いちゃって。そんなに寂しかった? ごめんね。連絡入れようにも携帯忘れてたし、くそ上司が見張ってるし、したかったけど出来なかったんだよ」
困ったような顔で、諏訪部さんが俺に謝る。
だけどそんなことよりも、ここに帰って来てくれたことが嬉しくて嬉しくて。
「すわべ、さん……っ」
心臓が、自分でも信じられないくらいの早さで動いてる。
「おいで、桜井くん」
諏訪部さんが優しく微笑んだ。それから、バラの花束をテーブルに置くと、俺に向かって両手を広げた。
これは、抱きついてもいいってこと?
「……っ、」
ぎゅうぅうっ
俺はコタツから飛び出して、諏訪部さんに思いっきり抱きついた。
諏訪部さんが、よしよしと数回頭を撫でてくれる。そして力強く、大きな手で俺を包み込んでくれた。
夢みたいだ。
諏訪部さんがこんなふうに俺を抱きしめてくれるなんて 。
「あー、ケーキ買ってくるの忘れちゃった。気のきかない奴でごめんね。桜井くん、花とか好き?」
急いで帰らなきゃって、そればかり考えていたからさ。
そう呟く諏訪部さんの声が、優しく頭に響く。
「好きっ」
背中に回した手に、さっきよりも少しだけ力を込めた。
好き、好きだよ。花でも何でも。
大好きな諏訪部さんが、俺にくれるものだったら。どんなものだって、大好きに決まってる。
「良かった。知り合いがね、せっかくだから花も買って行けば喜ぶんじゃあないかってアドバイスくれたんだよ」
あーあ、こんなに目を腫らしちゃって。
諏訪部さんがそう言ってクスリと笑う。
そして、目蓋や目尻にちゅっと軽いキスをくれた。聞こえるリップ音に、俺の心拍数が上がる。
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