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けんかするほど仲がいい(4)

ほらほらと悠太に促され、やってやろうじゃあないかと張り切った俺は、プリントを左手にシャーペンを右手にきちんと持った。ここが分からないから教えて欲しいと、たったその一言を言うだけ。 相手は悠太だけれど、練習も本番と思わなきゃ意味がない。大好きな達哉にお願いするんだ。 達哉に……、そう、今俺の目の前にいるのは、悠太じゃあない。達哉だ。 達哉、達哉……目の前にいるのは達哉。 ちゃんとお願いするんだよ。暴言吐いて照れ隠ししちゃあダメ。 「……っ、あ、」 悠太の顔が歪んでいく。悠太を達哉だと思い込むと、だんだん悠太の顔が達哉に見えてきてしまった。練習も本番同様にとは言ったものの、まさか顔まで達哉に見えてしまうとは。 これじゃあ、達哉にいきなりお願いするのと同じじゃん。本番そのものじゃん。 俺は、どうしたらいいの? 「た、たたた、たつ……、たっ……」 「はいだめー。今なら達哉の気持ちが分からないでもない。お前は救いようのないばかだ」 「……うっ、」 心配して頭を撫でてくれていた優しい悠太はもういない。悠太にまで、ばかだと言われてしまった。 「俺がね、お前の勉強見てやってもいいんだけど。やっぱ達哉じゃなきゃあ意味がないし。せっかく一緒にいる口実ができるんだからさ。明日ちゃんと謝って、達哉に勉強教えてもらえよ」 最後に、俺の頭をぽんぽんと軽く叩くと、悠太は教室を出て行ってしまった。 ……ちゃんと言えたら、誰も苦労しねぇよ。 俺は教室で一人、明日達哉に最初に言わなければならない「昨日はごめん」を繰り返した。

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