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けんかするほど仲がいい(5)

──…… 最悪だ。昨日たくさん練習した「ごめん」の言葉は、一度も使われることがなかった。 「悠太、次の授業サボるからよろしく」 教室の入り口で悠太にぶつかったから、一言そう言った。 「え? ちょ、雅行?」 悠太が驚いた顔をして、俺の腕を掴む。 「保健室に行ったとかなんとか言って誤魔化しといて」 悠太の手を振り払うと、俺はダッシュで屋上に向かった。誰もいないところで、とにかく一人になりたかったから。言い合いでも何でも、達哉と一言も会話ができないのは苦しい。だからどうしても達哉と同じ空間にいたくなかった。 「はぁ……、っは……」 いつもなら、たとえ喧嘩したとしても、次の日には仲直りしてるのに。自然と会話して、何もかもまた元通りになるのに。 今日は、どうして? いつもとは違うの? 俺、頑張ったよ。 ちゃんと謝ろうと、何回も声をかけようとした。 だけど聞いてもらえなかった。名前を呼んでも完全無視だった。 さすがにこんな俺でも、無視をされると分かっていて話しかけるほどばかじゃあない。 「はぁっ……」 屋上に着くと疲れがどっと押し寄せてきて、すぐに日陰になってるところに寝転んだ。ひんやりと冷たいコンクリート。それは気持良いけれど、気分は最悪だ。 じわりと、目に涙が溜まる。俺はそれをゴシゴシと拭いて、そのまま目を閉じた。眠ってしまおう。そうしたら、寝ている間だけでも、何も考えなくて済むから。傷つかないで済むから。

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