159 / 224

不思議な飴玉(7)

弁当を食べ終わると、俺は飴玉の入った容器を取り出した。 「西川」 「ん?」 「昨日知り合いに飴玉もらったんだ。食べない?」 「飴玉ね……。もらおうかな?」 震える手でなんとかフタを開けて差し出すと、西川が一粒取り、ゆっくりと含んだ。 「美味しい?」 「美味しいよ」 にこっと優しく微笑まれ、俺の心臓が今までにないくらいにうるさく動きだす。 ごめん。 西川、ごめんね。 俺が今からする行為は、完全な裏切り行為だ。 西川の気持ちは、無視することになってしまうけど。 お願いだから、少しだけ付き合って。 俺の願いを、叶えてください。 「西川」 「どうした?」 「抱きしめて……っ」 いきなりすぎるかな、とも思ったけど、して欲しかったから。 時々頭を撫でてくれるその手で、ぎゅっと抱きしめて欲しかったんだ。 西川への、初めてのお願い。 俺は言った後、なんだか恥ずかしくなって目を閉じた。 抱きしめてなんて、こんな機会じゃなきゃ言えないもの。 「広瀬の顔真っ赤。可愛いね。いいよ、膝においで。抱っこしてあげる」 「……っ」 ぽんぽんと、西川が俺の頭に触れる。 ゆっくり目を開けると、また「可愛い」と言われた。 「前からがいい? 後ろからがいい?」 「えっ」 「抱きしめ方だよ。向き合ってがいいか、後ろから抱きしめられるのがいいか、好きな方選んで」 「ま、前から……っ」 抱きしめ方とか聞かれるなんて、そんなこと思ってなかった。 あぁもうどうしよう。 ドキドキで死んでしまいそうだよ。

ともだちにシェアしよう!