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不思議な飴玉(8)

……ヤバい。 自分から抱きしめて欲しいとお願いしたのに、体が動かない。 どう座ったらいいんだろ? 俺が座って、足とか痛くないのかな。 あわあわと軽くパニック状態になっていると、西川がクスッと笑った。 それから俺の手首を掴むと、自分の方へ引き寄せた。 「緊張してんの? 自分で言ったのに」 「ごめん……」 「謝んなくていいから。本当に可愛いね広瀬は。飴玉使っても照れ屋さん……」 「え?」 「いいから、早くおいで」 西川が何て言ったのか分からなくて、きょとんとしていると、西川はまたくすっと笑って俺の頬にキスをした。 「……っ、」 俺、抱きしめってってお願いしかしてないのに。 西川が、キスしてくれた。 ほっぺだけど、キス、してくれた。 飴玉の力って、本当にすごいや……。 「広瀬、早く座って」 「う、うん……」 俺は色んなことにドキドキしながら、西川の膝に乗った。 「顔、どんどん赤くなるね」 「……っ、だって、」 「ん?だって、何?」 「西川が、」 「俺が?」 「も、無理……」 ただでさえ西川との距離が、ものすごく近いのに。 そんなこと言って意地悪されたら、俺本当に死んじゃうよ。 「広瀬、」 「なに、」 「可愛いね」 「……っ、だから、」 西川は照れる俺の頬に触れた後、頭を数回撫でてから、ぎゅうっと抱きしめてくれた。 一気に西川の匂いに包まれる。 清潔感のある香り。 俺も、背中に手を伸ばし、力いっぱい抱きしめた。 夢じゃない。 ちゃんと、温もりもある。 西川が、俺を抱きしめてくれてるんだ。 「西川、好き……」 「うん、俺も。広瀬が好きだよ」 いつもと同じ場所で、 いつもと同じ関係なのに。 今日は、いつもより幸せだった。

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