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不思議な飴玉(9)

━━━━ 「西川、今日一緒に帰ろう」 「家に遊びに行きたい」 「西川、抱きしめて」 「頭撫でて」 「キスして……」 それから一週間、毎日色んなお願いをしてみた。 怪しまれないように、飴玉が無くならないから食べてと無理矢理な理由を付けて、毎日食べてもらった。 次の日になったら俺のお願いごとも、俺にしてくれたこともすべて忘れているし、都合が良かった。 西川の頭の中では、キスやら何やらの記憶はなくなり、テレビの話をした、ゲームを一緒にしたなどという、飴玉を使う前にしてた記憶に塗り替えられていた。 本当に、都合が良かった。 でも、いくら恋人らしいことが出来ても俺の心は満たされない。 大事にしてもらえても、それは飴玉のおかげなわけで。 同じ西川だけど、本当の西川じゃない。 西川の意思じゃない。 飴玉は、まだまだたくさん入ってる。 しばらくの間は、ずっとお願いごとを聞いてもらえるだろう。 でも、今日で終わりにする。 もう、頼みごとはしない。 だから、西川。 最後に一つだけ。 「西川、今日家に遊びに行きたい」 俺はあることを決意して、西川にいつものようにお願いをした。

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