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記念日(7)
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「……ん、」
体が揺れているような気がする。
それから、名前を呼ばれているような気も。
ぼんやりとした意識の中、その行為がとても迷惑だと思った。
寝ているんだから邪魔をしないで。
お腹空いてないし、何も飲みたくない。
「んんっ、」
身を捩り、起こさないでとの意思を示す。
けれど、それでもやめてくれない。
仕方がないと、不機嫌になりながらも重い目蓋を開ければ、すぐ目の前に大好きな人の顔があった。
「葵……っ」
まだ視界はぼんやりとしているけど、好きな人の顔を間違うはずがない。
「絢斗……?」
僕を起こしたのは、絢斗なの?
でも、どうして?
どうして、絢斗がここいるの?
お見舞い……? 休んでたから心配で?
状況がいまいち分からなくて、ぼーっ絢斗を見る。
すると、ゆっくりと体を起こされ、「ごめん!」と言って抱きしめられた。
「絢斗?」
意味が分からないよ。
何のことを話してるの? ごめんって何……?
お見舞いに来たんじゃないの? って、もっと状況が分からなくなる。
ひとまず抱きしめ返した方がいいのかな。
そう思って、絢斗の背中に手を回した時、耳元で言われた言葉に体が固まった。
「記念日のことごめん。お前のスケジュール帳見た」
「……え?」
「俺、お前の気持ち考えてなかった。傷つけたよな? ごめん」
絢斗の言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
ごめん?
記念日?
僕のスケジュール帳?
「あ……、」
絢斗の言葉が理解できた時、急に力が抜けて。
彼の背中に回した手が、だらんと落ちた。
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