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記念日(8)

『いちいち記念日祝う意味が分かんねぇし』 「……っ、」 見られた。 見られてしまった。 毎月丸を付けて、今月は“一年記念デート”の文字まで書き込んでいた。 楽しみすぎて、まわりにハートだって。 それを、見られちゃったんだ。 ウザいって思ったかな。 僕のこと、嫌いになったかな……。 「……っ」 自分の机を見て、さらに言葉を失う。 ああ、写真……飾ったままだ。 「あ……」 どうしよう。 写真も、きっと見られたよね。 重いって、思われたかな。 「……う、ぁ、」 怖い。 「葵、俺……」 嫌だ、怖いよ。 僕は次に言われるだろう言葉を聞きたくなくて、震える手で耳を塞いだ。 さっきから絢斗の言ってる「ごめん」は、そういうこと? だったら聞きたくない。僕は絢斗が大好きだもの。謝るから、それ以上言わないで。  「葵……、」    ちゅっ 「え……?」 でも聞こえて来たのは言葉でもなんでもなくて。 軽く重ねられた唇からする、小さなリップ音だった。 「記念日のことあんなふうに言ったのはどうでもいいからじゃなくて」 何が起きたのか整理する間もなく、再び抱きしめられる。 さっきよりも力強く。

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