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記念日(9)

「俺の中で、お前といることが当たり前になってて、」 それは僕もだよ、と絢斗に抱きしめられながらぼんやりとそんなことを考える。 「だから……」 絢斗は僕を抱きしめるのをやめ、背中に回していた手で、今度は僕の手を握った。 「いちいち一ヶ月だの半年だの一年だのって、記念日を祝う意味が分かんねぇっていうか」 ゆっくりと、指が絡められていく。 絢斗は僕から目を逸らし、繋いだ手をじっと見つめた。 「記念日祝うってさ、もう本当、何て言ったらいいのか分かんねぇけど」 何を言われるのか分からないけど、こんなに戸惑っている絢斗を見るのは初めてだから。 きっと、悪いことじゃないはずだって、なんとなくそう思えてきた。 ちゃんと聞いてるよ、って、絢斗の手を握り返す。 「一緒にいることが当たり前じゃないって言ってるみたいじゃん」 ……一緒にいることが当たり前じゃない? 「好きで一緒にいるのに、一緒に過ごせた期間ばっか意識して」 あぁ、だから。 「好きだから一ヶ月だって半年だって一年だって一緒にいるわけであって、それは別にすごいことでも何でもないし、」 だから、絢斗は。 「ああもうまじで分かんねぇ! 何て言ったら上手く伝わんの?」 “あーっ” 絢斗は急に叫ぶと、今度は手を握るのもやめてしまった。 赤くなった頬を隠すように、手で顔を覆う。 そしてそのまま、ベッドにゴロンと寝ころんでしまった。 絢斗の言いたかったこと、ちゃんと分かったよ。 僕のこと、嫌いじゃないんだよね? 僕は絢斗の隣に寝ころぶと、彼の胸に顔を埋めた。

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