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記念日(10)
「絢斗、」
「葵、あのな、」
「……ん?」
「要するにさ、」
「うん、」
「俺はお前が、すっげー好きってこと」
「……っ、」
じわじわと、温かい気持ちが胸いっぱいに広がる。
昨日からずっと不安だった気持ちや、怖いと思っていた気持ちがだんだんと薄れていって。
温かで幸せな気持ちが、広がっていく。
久しぶりに言われた“好き”が、ゆっくりと深く僕を満たす。
「絢斗……」
僕は精一杯の力を込めて、絢斗の背中に腕を回した。
「葵」
「ん……」
「明日はデートしよう」
「え……っ」
僕の背中にも手が回され、絢斗と密着した体に、彼の心臓の鼓動が伝わる。
いつもより、ドキドキしてる。鼓動が早い。
「記念日なんかって思ってたけど、」
「うん、」
「大好きなお前が俺を選んでくれた日なんだからやっぱり特別なんだよな」
「絢斗、」
“葵もそう思ってくれて、記念日大切にしてくれてたんだろ?”
優しく笑ってそう言われ、ぼくはこくんと頷いた。
「一日早いけど、今言わせて」
絢斗の顔が近づいて来て、こつんとおでこがぶつかった。
「俺を選んでくれてありがとう。一年も、葵と一緒にいられたことに感謝してる。葵を好きになって良かったって心から思うよ。だから、これからもずっとそばにいて」
“僕も”
“絢斗を好きになって良かったって心から思うよ”
“これからもずっとそばにいる”
嬉しすぎて、声にならない。
ちゅっ
だから僕は、返事の代わりにキスをした。
END
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