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もう一度(5)
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目の前で、りょうさんが泣いている。
「ごめんなさい……」
俺が掴んでいない方の手で必死に涙を拭いて、何度も謝りながら。
「ごめん、な……さい……」
ずっと顔が見たかった。
会いに行きたかった。
別れ話は無しにして欲しいって言いに行こうかと、そんなことまでも考えた。
それほど、りょうさんに会いたいって思ってた。
こんな状況だけれど、りょうさんに会えたことに嬉しさを感じてる。
りょうさんの手の感触。
少し小さめの、柔らかい手。
でも、どうして?
何をそんなに謝ってるの?
「りょうさん……」
泣いてる理由は? 俺のところに来てくれた理由は?
「りょうさん……、」
ねぇ……、俺はまだあなたを好きでいていいの?
「りょうさん、こっち」
俺は掴んでいた手を離して、きちんと手を握りなおした。
二人の男が道の真ん中に立っていたら邪魔だろうから、人気のない路地にでも入ろうかと思って。
だけど、そんな人目につかないような都合のいい場所なんてこの辺にはない。
「りょうさん、」
見ている限り、しばらくはまだ泣きやまないだろう。
家に、連れて帰ってもいいだろうか。
俺の部屋で、ゆっくり話を聞くだけなら、問題はないよね。
りょうさんと、二人きりになりたい。
「りょうさん、俺ん家に行こう」
そう声をかけて手を引くと、りょうさんは抵抗することなくついてきてくれた。
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