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もう一度(8)
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「りょうさん、どうしたの……?」
部屋に入っても、彼は相変わらず謝って泣くだけ。
俺は、りょうさんの頭を優しく撫でた。
「りょうさん……」
どうしたらいいのか分からない。
抱きしめていいの? 涙を拭ってあげてもいいの?
さっき手に触れた時だって、彼は嫌がらなかった。今も、頭に触れているのに抵抗はない。
だけど、別れたでしょう? って。
付き合ってる頃のように触れてはならないと、複雑な想いが絡み合う。
りょうさん、俺はまだあなたが好きなんだよ。
それなのに、そんな俺の前でこんな姿見せるなんて。
「りょうさん……」
もうダメだ。
……我慢できない。
俺は、りょうさんを引き寄せると、しばらく会えなかった分力強く抱きしめた。
腕の中にすっぽり収まるりょうさんに、愛しさがこみ上げる。
久しぶりのりょうさんの体温。
「りょうさん……、」
あなたにね、こうしてまた触れたいってさ、ずっとずっと思ってたんだよ。
「陽、呂……っ」
応えるようにして、りょうさんが俺の背中に手を回す。
「ごめんな……さい……。ごめん、な、さ……い……」
背中に回された手が、震えてるような気がした。
そして、一言、弱々しく言葉を漏らす。
「……りょうさん、」
その言葉が、あまりにも俺に都合のいいもので。
聞き間違いかもしれなかったのに、俺は確認もせず、りょうさんの口を塞いだ。
“まだ好きなの……”
たとえ、それが間違いだったとしても。
俺はりょうさんを、またこうしてこの腕で抱きしめられただけで、それだけでもう…。
りょうさん、キスしてごめんね。
俺はまだ、あなたを想ってる。
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