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幸せになろうよ(4)
小学校を卒業すると、篠原や高田たちとは違う、隣町の中学に通った。隣町だからたまに知っている奴に会うこともあったけれど、俺に話しかけてくる奴なんか誰もいなかった。
中学を卒業する頃には、経済的にも少し余裕が出てきて、俺たちは遠いところに引っ越した。
俺を知っている人は誰もいなくなって。
寂しかったけれど、それも仕方がないと思った。
頑張って働いてくれている母さんには申し訳ないと思ったけど、髪も染めてピアスもつけた。
さすがに今まで散々迷惑をかけたから、不良のグループに入るだとか、暴力事件を起こすだとか、そんな問題行動はやらなかったし、やるつもりもない。
ただ、誰も寄って来ないようにと、そう思って。
大切な人を、作りたくなかったから。
何を言われても睨んで終わり。
この見た目とその態度、少しの暴言。
思った通り誰も近づかなくなって。
友だちと楽しく会話、なんてこともなく、一人で毎日を過ごしてた。
寂しいよって、心は叫ぶけど。
そうなったしまったのは、全て俺のせいだから。
でも、こんな俺に一人だけ話しかける奴がいた。
柳瀬翔悟。
俺とは正反対で、クラスの人気者。
「柚樹」
柳瀬はいつも優しい声で俺の名前を呼ぶ。
何を言ってもどんな態度を取っても、俺から逃げることはなくて笑いかけてくれた。
「一人でいるのは寂しくないの?」って、俺を気遣ってくれた。
「別に」と答えれば、「強がりだなぁ」ってまた笑って、それから頭を撫でてくれる。
手が、とても温かかった。
与えられる優しさに、何度も涙が出そうになった。
だから、怖いんだ。
柳瀬が、俺の中で大切な人になってしまうことが。
だけど俺には、誰かを想うなんてことは許されない。
それに、今度は俺が何もしなくたって、きっと柳瀬は俺から離れていってしまう。
許されない過去があるから。
何も言わずに抱きしめて欲しいと願いながらも、彼に甘えることはできなくて。
俺には誰かを想う資格も、想われる資格もないんだと、満たされる気持ちを押し込めてきた。
それなのに。
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