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幸せになろうよ(8)

「なに?」 「……え」 「今、俺の名前呼んだでしょ」 耳元で囁かれる声に、背中から伝わる熱。 激しく動く、俺の心臓。 「柚樹、俺のこと好き……?」 柳瀬の手が、俺のお腹に回される。 あぁ……、俺はもうこの腕から逃れることなんてできないんだ。回された分の距離が縮まり、柳瀬の温もりがより近くで感じられる。 「あーあ、俺のブレザーを大事そうに抱きしめちゃって」   片手は俺に回したまま、もう片方の手で柳瀬が自分のブレザーを引っ張る。 「……ぁ、」 俺はその温もりが消えてしまうのが嫌で、取られないようにもっとぎゅっと抱きしめた。 「……ねぇ、柚樹」 そんな俺の耳元で、柳瀬が優しい声で俺の名前を呼ぶ。 「本物がいるんだからさ、それを抱きしめてないで、俺に抱きつけばいいじゃん」 “そっちの方が、温かいだろ?” え、と一瞬の隙に、ブレザーが奪われてしまった。そして気付いた時には、後ろからじゃなく前から、強く、でも大切に抱きしめられていた。どくどくと、柳瀬の鼓動が伝わってくる。 「柚樹」 「……っ」 「そろそろ幸せになろうよ、」 ……幸せ。 俺が、一番欲しくて、でも手に入れることができないもの。俺なんかがって、ずっと捕らわれたまま。 だけど、心のどこかでは、それでも掴みたいって思ってる。 「……、ぁ」 「なぁ、柚樹。俺が、お前を幸せにしてやるから」 「……っ、ふ、ぅ……」 「もう、過去の自分を許してやって」 「俺が、全部受けとめるからさ」

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