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それに何と言っても、ガラスでできた靴が素晴らしかったのです。
ガラスでできていること以外は紳士用の仕立ての良い靴、そのものでした。
爪先や甲の細かなところまで精巧に作られていて、ガラスなのにとても履き心地がよく、しかも地面を踏み鳴らした時の音がまた格別でした。
「すごいや!」
明るく笑うエルンストの瞳は、誰もが気づかなかったのですが、どこまでも晴れ渡った空のような美しい青色でした。
暖炉の灰でくすんでいた頬は透き通る白さを見せ、髪は朝の光のような本来の金色を取り戻していました。
男はエルンストの姿を見て、とても満足そうに微笑みました。
そしてさらにステッキの先を畑に向けます。
「!」
かぼちゃが立派な馬車に、ねずみが賢そうな御者と駿馬へと変身しました。
「あなたは魔法使いだったのですね!」
純白の馬車を見て、エルンストは目を輝かせます。
その問いに男は優しく微笑むのでした。
「さあ、これに乗って舞踏会に行ってきなさい。ただし、ひとつだけ気を付けなければならないことがある」
魔法使いはエルンストに、真剣な眼差しを向けました。
「この魔法は城の十二時の鐘が鳴ると消えてしまう。だから鐘が鳴り終わるまでに、帰って来なければならないよ」
「十二時の鐘ですね」
エルンストはしっかりと魔法使いの話を聞き、頷きました。
「でも、あなたはどうして、僕にこんなにも親切にしてくださるんですか?」
小さく首を傾げて、魔法使いに訊ねました。
すると魔法使いは僅かに視線を落とします。
「私は……君が……」
迷うようにそこまで言って、魔法使いは顔を上げると、優しげなヘーゼル色の瞳を細めました。
「君が、いつも頑張っているご褒美だよ。さあ、もう行きなさい」
魔法使いに促されて、エルンストは馬車に乗り込みます。
「ありがとうございます。僕、行ってきます!」
エルンストは馬車の窓から屈託のない笑みを零しました。
***
月の光に照らされたお城は見上げるほどに高く、圧倒されるほどに気高く、そして、湖面に映るその姿は溜息が出るほどに美しいものでした。
赤色の屋根をした尖塔の先には、この国の旗が靡いています。
エルンストは緊張で高鳴る胸を押さえながら、広い階段を上って大きな門の前に辿り着きました。
すると、怖そうな門番がじろりとこちらを睨みます。
エルンストの心臓がドキリと鳴りました。
しかし門番はエルンストに向かって一礼すると、すんなりと門の内側に入れてくれたのでした。
お城の中ではすでに舞踏会が始まっていました。
天井から下がるたくさんのシャンデリア。
ふかふかの真っ赤な絨毯。
煌びやかに着飾った老若男女。
軽やかな曲がエルンストを包み、気分を高揚させます。
まるで子供の頃読んだ絵本の中に入ってしまったかのようです。
エルンストは目を瞬かせながら辺りを見て回りました。
しかし、ふと、周りの人々が遠巻きに自分を眺めていることに気づきました。
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