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*** 王子は美しいエルンストに一目惚れしたのでした。 ガラスの靴を頼りにエルンストを見つけ出すと、王子はすぐにエルンストを花嫁として迎える準備を始めました。 エルンストは王子に与えられた部屋で、上等な服に身を包み、繊細な細工が施された椅子に座っています。 「はああ……」 けれどエルンストは、この立派な部屋には似つかわしくない深い溜息を吐きました。 目の前のテーブルにはガラスの靴が載せられていました。 王子の花嫁になれる。 それはとても喜ばしいことのはずでした。 それなのに婚礼の日が近づいてくるたび、エルンストの心はなぜか沈んでいきました。 エルンストの目蓋の裏には、王子と出会うきっかけをくれた魔法使いの表情が焼き付いていたのです。 魔法で綺麗な衣装に身を包んだ時。 どうして親切にしてくれるのかと訊ねた時。 馬車から手を振った時。 魔法使いはとても満足げで嬉しそうだったのですが、その眼差しはどこか、哀しげでもありました。 その顔を思い出すと、エルンストの胸はキュッと痛くなりました。 エルンストはこの気持ちが何なのかはわかりません。 けれども、居ても立っても居られなくなり、ガラスの靴を胸に抱えると、お城を飛び出してしまいました。 *** エルンストはガラスの靴を持って、城下町の靴屋を訪ね歩きます。 「この靴を作った人を知りませんか?」 エルンストと魔法使いを結ぶものは、この靴だけだったからです。 今にも切れてしまいそうな細い糸を頼りに、何軒も何軒も靴屋を巡りました。 しかし誰もこのガラスの靴を作った人を知りませんでした。 もう何軒目の靴屋でしょうか。 「知らねぇな」 頑固そうな職人がエルンストのガラスの靴を一目見て、ぞんざいにそう答えた時でした。 「ちょっと見せてくれるかの?」 客として店内に居た老婆がエルンストに近づいてきました。 長い白髪を結い上げた老婆は、曲がった腰を支えるために杖を突いています。 「ど、どうぞ」 エルンストが腰を屈めてガラスの靴を手渡すと、表も裏も隅々まで見つめたあと、 「これはミゲイルの作ったものに違いないわい」 と言いました。 「えっ、ご存知なのですか?」 エルンストは縋るような瞳を老婆に向けました。 「よく知っておるよ。家を教えてやるから、早く行っておやり」 老婆は口元の皺を深めて、にっこりと笑いました。

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