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*** エルンストは老婆に教えられた場所まで走りました。 町はずれのそこにあったのは石造りの古びた一軒家で、大きな煙突からは煙が出ていました。 エルンストは息を整えながら、扉に付いている窓からそっと中を覗いてみます。 そこはガラス製品を作る工場(こうば)でした。 男性がひとり、背を向けて炉の前に立って仕事をしていました。 炉の中には赤々とした火が燃えています。 (この人が、ミゲイルさん……? あの魔法使いさんのことを、何か知っているかもしれない) エルンストは一縷の望みを掛けて、扉をノックしようとしました。 するとその時、背を向けていた男性が肩に掛けられた布で汗を拭きながら、僅かに横を向きました。 「!」 エルンストは息を呑みました。 男性は、捜していた魔法使い、その人だったからです。 ヘーゼル色の瞳、精悍な顔立ちには無精ひげ。 フードで見えなかった髪はブラウンで、緩やかにウェーブしていました。 鍛えられた身体を覆った白いシャツは汗だくになっており、一心に仕事に向き合っている様子が手に取るように伝わってきます。 エルンストは堪らず、ノックもせずに扉を開け放ちました。 「魔法使いさん!」 エルンストの呼びかけに、ミゲイルが驚いた表情でこちらを振り返ります。 「どうして、君がここに……」 「僕、どうしても、もう一度、魔法使いさんに会いたくて……だから」 震える声でやっと出した言葉を遮るように、ミゲイルが静かに首を横に振りました。 「私は、魔法使いなんかじゃない。ただのガラス職人だよ」 その声は、深い海のように心地よい低音で、確かにあの夜に出会った男のものです。 「では、どうして……? どうして、ただのガラス職人なのに、僕に魔法をかけることができたのですか?」 エルンストは持っていたガラスの靴を胸に抱き締めました。 「あなたはどうして、僕なんかに……、あんなに親切にしてくださったのですか?」 エルンストが喘ぐように疑問を言い募ると、ミゲイルは困惑した瞳を揺らし、僅かに俯きました。 「私は……」 しかし、意を決したように顔を上げると、エルンストの惑う青色の光を正面から捉えました。 「私はずっと、君を見ていた」 そして一言、凪いだ海のような静かな声でそう告げました。

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