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「え……! ずっと……?」
緑にも茶にも見える、不思議な色をした瞳がエルンストを真っ直ぐに見つめます。
「町にガラス細工の行商に出た時だった。ひとつも売れずに自棄になっていた私が目にしたのは、自分の吐息で指先を温めながら、庭先で何かを祈る君の姿だった。君が誰かのために祈る姿は本当に美しかった」
エルンストは夕暮れ時に亡くなった母親を思い浮かべながら、今日一日を無事に過ごせたこと、そして、家族の幸せを祈るのが日課でした。
あんな継父、義兄でしたが、いつか仲良く暮らせる日をエルンストは夢見ていたのです。
「町に出るたび、私は君の姿を見に行った。あとになって、君の不遇の立場を町の人に聞かされた。理不尽な目に合っても、希望を失わない君の姿に、どんなに励まされたことか。だから、私は……」
言いかけた言葉を呑み込むと、ミゲイルは作業台の方へと向かいました。
そして何かを手に取り、戻ってきました。
「先ほど、やっとできたんだ。これを君と王子様に贈りたい」
ミゲイルはエルンストの手を取ると、ガラスでできた指輪をふたつ、手のひらに載せました。
透き通ったその指輪は、今にも溶けてしまいそうな氷でできているかのように繊細で美しいものでした。
「王子様と幸せに。結婚おめでとう」
そう祝ってくれたミゲイルの優しくも哀しげな眼差しを見た瞬間、エルンストの胸は棘で突かれたような鋭い痛みを感じました。
ようやく、エルンストは自分の気持ちに気づいたのです。
「ぼ、僕は……!」
エルンストが指輪を握り締めて、そう言いかけた時でした。
燃え盛っていた炉の火がふっと消えました。
そして辺りの光もすうっと炉の中に吸い込まれていきます。
「さあ、時が来た」
真っ暗になってしまった部屋に、しゃがれた不気味な声が響き渡りました。
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