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「坊ちゃま、中学校のお友達がお見えです」
ある日メイドに呼ばれていくと、玄関に同じクラスの男子生徒が立っていた。
日に焼けた顔を顰めて、窮屈なのか学ランの詰襟を外そうとしている。
名前は確か……、山……なんとか、そうだ、山科(やましな)だったと思う。
陸上だかバスケだか、何か体育会系の部活動に入っていたはずだ。
もちろん、友達なんかじゃない。
「これ、先生がどうしても本人に渡すようにって」
俺の姿を認めると、渋々といった口調で山科は学生鞄からプリント用紙を一枚、取り出した。
「ああ」
俺も視線を逸らしながらそれを受け取る。
「じゃあ」
「な、なあ!」
すぐさま踵を返す山科に、俺は咄嗟に声をかけていた。
自分から誰かに声をかけるなんていつぶりだろうか。
「……なに?」
「なあ、検索ロボット、持ってる?」
「持ってるけど……」
振り返った山科が怪訝そうに俺を見やる。
「そいつって、質問以外のことも喋る?」
俺の問いかけに山科は僅かに眉根を寄せた。
「喋るかよ。それってバグかなんかじゃねぇの? 喋るのか、おまえの」
「あ、ああ。検索の答えのあとに一言、余計なことを」
俺の答えを聞いた山科が突然、「プッ」と噴き出した。
「なんだそれ。でも、面白いな」
「だろ? 俺、初めてでよくわからなくって。しかもそいつ、もう動かないんだ。それなのに執事服着てて……ん、なんだ?」
夢中で話していた俺の顔をじっと凝視する山科に、俺は戸惑いながらその目を見つめ返した。
「初めて見た」
「え?」
「勉強ばっかのいけ好かない奴かと思ってたけど、灰島(はいじま)ってそんな風に笑うんだな」
「……!」
目を見開いて、ヒュッと音がするくらい息を呑み込んだ。
「……たまには学校来いよ」
山科はそんな俺に苦笑しながら軽く手を挙げる。
「じゃあ、またな」
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