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「おまえって……、どんな風に笑うのかな」
背筋を伸ばし、きっちりと椅子に腰かけている検索ロボットの前に立ち、俺はその顔を覗き込んだ。
しかしきれいに並んだ目の際の睫毛ですら、微かに震えもしない。
「なあ、あんたはどうして喋るんだ? 山科のは喋らないそうだぞ?」
伝わらないとわかっていても、俺は一人、こいつに向かって話し続ける。
「学校……か。行ったがいいのかな」
そして思わず本音を漏らし、小さく溜息を吐きながら視線を落とした。
本当は行くべきだということはわかっている。
「でも……」
ロボットの腰の辺りに屈みこんで、『学校に行くべきか』とキーボードで入力した。
「一定の場所に設けられた施設に、児童・生徒・学生を集めて、教師が計画的・継続的に教育を行う機関」
いつもの声が答えを知らせる。
「そう、その学校」
「…………応援します」
「!」
即座に身体を起こした。
まじまじとその瞳を見つめたけれど、やはり表情はない。
俺は自分の頬が熱くなるのがわかった。
***
「ただいま」
返事がないのはわかっているはずなのに、俺は検索ロボットに向かって声をかけた。
そして数ヵ月ぶりに着た制服を脱ぎ始める。
教室に顔を出した俺を見る奇異な視線はやっぱり最悪だった。
授業内容もすでに知っていることばかりで退屈極まりなかった。
ただ、山科だけが俺に向かって手を挙げてくれた。
「本当に俺のこと、見えてないのか?」
着替えた俺はそいつの目の前に手を翳してみる。
それを左右に振った。
反応はない。
「見ててくれればいいのに……」
髪に触れてみた。
思ったより随分と柔らかい。
その手を滑らせて、頬から唇の縁を親指の腹でなぞった。
胸の奥を甘い痛みが走る。
「あんたが……、あんたが言ってくれたから」
目を伏せて言い訳のように呟いた。
『ありがとう』
俺はキーボードで入力した。
そいつは言葉の説明のあと、「どういたしまして」と付け加えた。
その声音はいつもより弾んでいるように聞こえた。
……きっと、俺の気のせいだけど。
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