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俺はそれから毎日学校に顔を出した。 といっても、本当にただ顔を出すだけだ。 授業中は海外から取り寄せた物理学の論文を読んでいる。 友達だってできやしない。 部屋に戻ると俺は疲労のあまり検索ロボットの膝の上に倒れこんだ。 「疲れた……」 独りごちる。 そいつの膝に温度はなく、ひんやりとした感触が頬に伝わるだけだった。 俺は腰のキーボードに手を伸ばし『ただいま』と入力する。 「外出から帰ったときの挨拶の言葉。…………おかえりなさい」 俺は返事を聞くと安堵の息を吐き、目の前で握られている掌を掴み取った。 一本一本の指を解き、ゆっくりと開いてみる。 「俺よりでかいや」 開いた掌と俺の掌を合わせてみると、笑みが零れた。 今度はその掌を自分の頬に当てる。 「冷た……」 そして膝の上からそいつの顔を見上げた。 「昔は動いたんだよなあ?」 問いかけても、視線は前を見たままだ。 俺のことを見てくれない。 すると胸の奥がギュッと絞られるような痛みを感じた。 なんなんだろう、この痛みは。 「なあ、教えてくれよ」 またキーボードに手を伸ばしたが、今度は指先が移ろう。 「……なんて入力したらいいんだ?」 俺は手を引っ込めた。 「どうしたら……、俺のこの胸の痛みはあんたに伝わるのかな」 この手が自ら俺に触れてくれたらいいのに。 そいつの掌に唇を押し当てて、俺は目を閉じた。

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