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目が覚めた時には、すっかり夜が更けていた。
検索ロボットの膝の上でぐっすりと眠ってしまっていた俺は、気恥ずかしさのあまりそこから飛び退いた。
「そ、そうだ、あんたに名前を付けてやろうか? このままじゃ不便だし」
見えてないとわかっていても、赤くなった顔を隠したくて、そいつの視界から逃れるように素早く腰を屈めた。
そしてキーボードに『名前を付けてやる』と入力する。
「ある人や事物を他の人や事物と区別して表すために付けた呼び方」
「そうだよ、区別すんだよ」
俺はロボットの答えにそう返事をした。
「…………ありがとう、ございます」
「えっ」
心臓が音を立てて鳴った。
「嬉しいの?」
じっと何かを見据えたままの瞳の前に、顔を寄せる。
もちろん、返事はない。
じわじわと胸の奥から温かいものが溢れ出す。
「うーん、なんて名前がいいかな……」
そいつの目の前で唸りながらも楽しげに腕を組んだ時だった。
「入るぞ」
久々に俺の部屋に顔を出した父親は、慌てた様子で言った。
「さっき友人から連絡があったんだが、その検索ロボットがリコールの対象になったそうだ。とんでもないものをもらったものだよ」
「え……」
俺はごくりと唾液を呑み込んだ。
父親は淡々と事実を口にする。
こいつを製造した会社によると、このまま使い続ければ不具合のある部品が発火、最悪、爆発の危険性もあるらしい。
「こんな不良品をおまえに与えるべきじゃなかった」
与える……だって?
あんたがこれまで俺に、何を与えてくれたって言うんだ?
「でも……俺は……こいつが!」
父親は俺の動揺や怒りになんて微塵も気づかず、言葉を続ける。
「今度は新しい奴を買ってやるさ。おまえが欲しがっていた最新型を。音声認識できる、わざわざキーボード入力なんてしなくてもいい奴をな」
「待っ……、そんな、だったらこいつは……、このロボットは、どうなるの?」
俺は父親に詰め寄った。
冷たい汗が背中を流れた。
「決まってるじゃないか」
父親は冷めた眼差しで俺の顔を見下ろした。
「処分されるんだよ」
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