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⑥‐3(おまけ)
***
「ねえ、真音、どうだった? 主演女優の衣装、すごく豪華だっただろ? それにあの歌声! 歌手じゃないことにびっくりだよ!」
俺は興奮した面持ちでエンドロールが流れるテレビ画面から、隣にいる真音に視線を向けた。
真音はまだ画面を凝視したままで感じ入った溜息を吐いていた。
「うん……、とってもいいお話だった」
今日は俺の部屋で真音とふたりでDVDを観ていた。
どうしても真音に観てほしい映画があったんだ。
「そうか、真音にも気に入ってもらえてよかったよ。相手役の男優の伸びのある歌声も素晴らしかったよな。ミュージカル部分だけでも、何度観ても飽きないよ」
エンドロールが終わり、メニュー画面に戻る。
俺はリモコンを手に取った。
「比呂くん……」
すると、真音が俺の顔を横から覗き込んできた。
「どうした?」
テレビを消して、真音に向き直る。
「比呂くんの目には素敵なものがたくさん映るんだね。僕……、そんな比呂くんが、好き……」
そう言った真音は目を伏せて、はにかんだように笑う。
けれどもその全身からは、なぜか今にも泣き出しそうな気配が感じられた。
「真音……」
幼稚園で出会って以来、俺はずっと真音の絵を見てきた。
真音の描く世界は、絶望に塗り込められそうになる俺の現実をいつも美しいものに変えてくれた。
いつか真音と同じ世界が見たい。
ずっとそう思ってきた。
だから俺は、世界の素晴らしさに気づくことができたんだ。
「……真音、キスしてもいい?」
俺が問うと、真音は一瞬驚いたように顔を上げた。
しかし、俺と目が合うと顔を真っ赤にして即座に俯く。
「……うん」
そして、小さく頷いた。
「顔を上げて?」
真音がギュッと目蓋を瞑ったまま、おずおずと顔を上げる。
俺は顔を近づけ、真音の唇に自分の唇を、初めて、そっと触れ合わせた。
その柔らかな優しい感触は、俺の心に温かく、切ない感情を呼び起こす。
幸せで目頭が熱くなった。
「……ねえ、真音、知ってる?」
唇を少しだけ離して、真音の瞳を覗き込む。
愛しい真音とキスをすること。
俺の中でまたひとつ、この世界に素晴らしいことが増えたんだよ。
***「僕だけの水玉(おまけ)」終わり
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