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⑩‐4

*** 僕は正門に駆けつけたけれど、そこに鳥海先輩の姿も徳田先輩の姿もなかった。 「あれ……?」 まだ時間が早いのか?  正門の前で十分ほど待ってみたけれど、幾人かの生徒が親や友人と連れ立って帰っていっただけで鳥海先輩はやって来なかった。 どうして? 鳥海先輩……。 僕の中で『一回目』の記憶が段々と鮮明になってきて、焦燥が募ってくる。 耳の奥には大型トラックの急ブレーキ音。 そうだ、結局事故が起きたのは吉松屋の交差点だ。 あそこに先回りしておこう! そう思い至ると、僕は正門前の桜並木を駆け出した。 僕は走りながら、起こってしまった『一回目』を思い返す。 僕と田辺、酒井が牛丼を食べ終わって店を出ると、鳥海先輩がこちらに向かって通りを駆けて来るのが見えたんだ。 あの時、鳥海先輩はなぜ慌ててあそこに来たんだろう……。 牛丼を食べにきた様子でもなかったし。 走ってきた鳥海先輩は僕たちの目の前で立ち止まった。 そして何かを言いかけた……。 けれど次の瞬間、前を見ずに走ってきた子供が先輩の背中にぶつかってしまったんだ。 その拍子に鳥海先輩の左手から卒業証書の入った筒が交差点に転げ出した。 そう、それを追って……。 背筋に悪寒が走り、僕は思わず身震いをする。 「はあ……っ、はあ、はあ……」 僕はやっと吉松屋の前に辿りついた。 息を整えながら辺りを見回したけれど、鳥海先輩の姿は見えない。 『一回目』の鳥海先輩がやって来たのは僕たちが食事を終えた後だから、もう少し待たなきゃ駄目なのか。 そう考えた時だった。 「榛名くん!」 僕を呼ぶ声がして振り返った。 そこには『一回目』と同じように、こちらに向かって駆けてくる鳥海先輩の姿があった。 え……? どうして僕の名前を呼ぶの? 鳥海先輩は僕に用があってここに来たの? 鳥海先輩は僕が気づいたことに安心したように頬を緩ませると、一度立ち止まり、そこで大きな深呼吸をした。 そして改めて僕に向かって歩き始めた。 「榛名くん、僕……」 鳥海先輩が口を開く。 『ドンッ』 しかしその体に衝撃が走った。背後から子供がぶつかったのだ。 「鳥海先輩っ!」 「僕の風船がー!」 子供の声とともに、手にしていた赤い風船が青空に高く舞い上がっていく。 鳥海先輩が持っていた卒業証書の筒も車道に転がり出す。 「あっ!」 駄目だ! これじゃまた『一回目』と同じだ! 僕は慌てて車道に向かって走り出した。 先輩より先に、今度こそ! 「やめろっーー!!!」 鳥海先輩の絶叫。 『プップ――――――――ッ!』 耳をつんざくクラクションの音。 もう少しで届くっ! 僕は車道に駆け寄り必死に手を伸ばした。

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