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⑩‐6
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『ピコン、ピコン、ピコン……』
規則正しい機械音が僕の耳に届いた。消毒薬の匂いが鼻をつく。
ここはどこ?
動かそうとしても手も足もビクともしない。
目蓋が張り付いてしまっているように重たくて、目を開けることさえままならない。
「……聞こえる?」
その時、僕の右手が温かいものに包まれていることに気付いた。
「榛名くん、君を呼ぶ僕の声が、聞こえる……?」
この声は……鳥海先輩……?
沈みそうになる意識の中で、僕は鳥海先輩の涙に滲んだ声だけに縋った。
「君は信じてくれないかもしれないけれど、僕は祈ったんだ。神様なんて一度も信じたことはなかったのに、どうかもう一度僕にチャンスをくださいって、ひたすら祈ったんだ……!」
鳥海先輩の僕の手を握る力が強くなる。
「そして今日を、卒業式からもう一度やり直せたというのに……。なのに僕は、君に気持ちを伝えるどころか、二度もこうして事故に遭わせてしまった。榛名くんを助けることができなかった!」
温かい手が小刻みに震えている。
「榛名くん、君には聞こえていないかもしれないけれど……でも、どうしても君に伝えたいんだ。僕はずっと君を見ていた。入学式で出会ってからずっと。でも卒業してしまったら見つめることさえできなくなるかと思うと……僕は……僕はっ!」
鳥海先輩の声は次第に嗚咽に変わっていく。
僕は動こうとしない指先に必死に力を込めて鳥海先輩の手を握り返そうとする。
重たい目蓋を懸命に持ち上げる。
「……聞こえて……たよ……」
僕は浅い呼吸の合間に声を絞り出した。
「っ!」
鳥海先輩がすぐさま泣き濡れた顔を上げる。
「榛名くん……!?」
「ずっと、聞こえてたよ……。鳥海……先輩の、僕を呼ぶ、声が……」
僕の目尻から、温かな涙が一筋、伝い落ちていった。
「……!」
鳥海先輩が泣き崩れる。
僕の心臓の動きを伝える確かな音だけが、静かな病室に鳴り続けていた。
***「君の声が聞こえる」終わり
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