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⑫‐2
一体、俺はどうしたらいいんだ!?
その場に蹲って頭を抱えたかった。
こんなに信じ切っている少年に、なんて言えばいいんだ?
俺は、君の親御さんが購入した『横島名人の将棋入門』を包装しただけ、という真実を伝えるべきなのか?
いや、『サザエさん』でマスオさんがサンタだった、というエピソードを流したら抗議の電話が殺到したって聞いたことがあるぞ?
がんばってサンタを演じている親御さんの手前、ここは話を合わせておいたほうがいいのか?
俺の頭の中で様々な考えが猛スピードで駆け巡った。でも答えを導き出す前に、少年がさらに言い募る。
「僕、サンタさんに会えたら言いたいことがあったんです!」
頬を上気させて、興奮気味に両手の拳を握り締める。
な、なんだ? トナカイに会わせてくれ、とかだったらどうする?
はたまた、来年の欲しいものをおねだり、とか?
身構える俺の前で少年は突然、頭を下げた。
「サンタさん、いつも僕のこと、見ててくれてありがとうございます!」
「え……」
「僕、ずっとずっと、あなたにお礼が言いたかったんです! 僕の欲しいものをちゃんとわかってくれる。それって僕のことを見ていてくれてるからでしょ?」
少年は幸せそうに微笑んだ。
「僕、サンタさんにお礼がしたかったんです。サンタさんが欲しいものはなんですか? サンタさんのことまだよく知らないから、教えてください! 今度は僕がサンタさんの欲しいものをプレゼントしたいんです!」
そう言って、少年はアニメの絵柄が付いた小さな小銭入れを俺の目の前に付き出した。
その瞬間、俺の鼻の奥は、ツンと痛くなった。
様々に廻っていた考えが、すっと心の中で落ち着いた。
俺は腰を屈めて、少年と視線を合わせる。
「……じゃあ、プレゼントの代わりに、俺からのお願いを聞いてくれる?」
「は、はい……っ、もちろん!」
少年は顔を引き締めた。
「今言った言葉をそのまま、君の親御さんに言うんだ」
「え? お父さんと、お母さんに……?」
「そう。できる?」
「は、はいっ!」
一瞬戸惑った少年だったが、大きく頷く。
「あとさ、また、ここに遊びに来てよ。あ、でも俺がサンタだってことは、君と俺と、ふたりだけの秘密な?」
そう付け加えると、少年は背筋をピンと正した。
「ぜ、絶対に言いません! では、サンタさんのお願いを叶えるため、早速おうちに帰ります! ありがとうございました、サンタさん!」
そう大声で言ったあと、「しまった!」という顔つきになって口元を覆う。
俺が笑っていると、少年は恥ずかしそうに頬を染め、リュックを掴んで走り出していった。その後姿に、彼の温かな家庭が垣間見えた気がした。
「あ、いらっしゃいませ!」
俺はレジにやってきたおばあちゃんに挨拶をする。手に数冊の絵本を抱えていた。
「これ、正月に孫にあげようと思ってねぇ」
その光景をすでに思い浮かべているのか、おばあちゃんの目は優しく細められている。
「では、プレゼント包装しましょうか?」
「あら、お願いできる?」
俺の申し出におばあちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんです、かしこまりました!」
俺が包んだプレゼントが、誰かの心を温かくする一役を担っていたなんて、あの少年と出会うまで、考えたこともなかったんだ。
このプレゼントを開けた瞬間、誰かが喜んでくれることを想像しながら、俺は丁寧に絵本の包装を始めた。
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