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烏丸イトという男③
オミはいつだって正しかった。
道から外れた俺を必死になって戻そうとしてくれるのはいつもオミだったけど、俺はオミの正そうとする道に結局今の今まで進むことはできなかった。
自分の力でも正しくなれない。心配する友人に手を差し伸べられても握り返せない。そんな俺に一体どんな価値があるんだろう。
正しい道を行った時に、お前はいらないと言われてしまったら。例えば、為してもならなかったら。
「……いやダメ!無理、怖い!!」
「……そうだな、酒入ってる時にこの話はよくなかった、悪い」
後半はずっと怒られっぱなしで、意識していなかっただけで緊張していたみたいだ。
どことなく申し訳なさそうに謝るオミの表情が、雰囲気が、ようやく柔らかくなったことに肩の力が抜ける、よかった。安堵した。
オミが怒る時は少し緊張する。そこには俺に対する心配の色が含まれているから、なおさら。
「いい加減帰るか、送るよ」
「いやいいよ、一人で帰れるから」
イスから立ち上がって壁にかけていた上着を取るオミを席についたまま見上げる。
オミは上着を羽織りながら俺の反論も聞かずにほら行くぞ。と卓上に置かれたレシートを握りつぶしてそのまま灰皿に落とした。
それを一瞥して、先に居酒屋を出て行くオミに続くよう席を立つ。店員のお見送りの言葉に手を軽くあげて振り向かないオミの背中を追いかけた。
オミはいっつもこうだった。月一の定例会以外にもたまに飲み行く事があるが毎度必ず、飲み終わりは俺の家まで歩いて送ってくれる。
女の子じゃあるまいし送りなんて、と何度断ったことか。それこそ学生の頃からずっと変わらない、奇妙な習慣だった。
「もう24だぞ?学生ならまだしも……いや学生だって男を家まで送らないだろ。そんなんだからお前顔いいのに彼女出来ないんじゃねえ?」
「あほ、俺と会った後に襲われでもしたら寝覚めが悪いだろ」
大人しく送られとけ。そう言って立ち止まり俺を振り返るオミ。送りを断るたびに聞かされるこの文句も学生の頃から何一つ変わる事はない。
ふうん、と空返事をしてすっかり暗くなった空を見上げる。星は見えない、ただ存外冷たい空気に身を縮こませた。季節はすっかり冬だった。
「オミくんは過保護なんだよね」
「手のかかる馬鹿息子がいるからな。いくぞ、イト」
「はいよー、いつもごめんねパパ」
「パパはやめろ、悪寒がする」
暗い夜道を二人並んで歩く。
冷えた指先を温めるように両手を上着のポケットにしまって、程よく酔いが回った体の熱を冷ますように夜の冷えた空気を深く吸い込んだ。
オミは俺にとってかけがえのない、唯一の友人なのである。
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