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宅配のニワさん②

「こんにちは、いつもお世話になってまーす!」 扉を開けると見慣れた顔がいつも通りのキラキラした笑顔を見せてそこにいた。 彼の名前はニワさん。 半年ほど前からこの辺の担当地区になった彼とは週一のペースで顔を合わせているため、今や俺とニワさんは顔を合わせば雑談を交わしたり配達に余裕があればうちで少しゆっくりして行くくらいには仲が良い。 年齢は多分俺と同い年か、少し上くらいだろう。 とても爽やかな青年で俺なんかにもいっつもニコニコしてくれる、鬼愛想の良いイケメンであると(俺の中で)評判だ。 「ニワさん。こちらこそいつもご苦労様です」 荷物はここ置いちゃってください、と玄関のスペースを指さす。 ニワさんは小さな段ボール箱を俺の言ったとおりにそこへ置くと、紙とボールペンを懐から取り出してサインお願いします、と微笑んだ。 「あれ…イトさん、なんだか眠そうですけど大丈夫ですか?また夜更かしですか?」 「あー、昨日発売のゲームがおもしろくって……つい」 「イトさんはゲームが発売されて一週間は寝不足ですもんね。ゲームもいいですけど、あんまり時間忘れてご飯食べ忘れたり寝不足続きは体に良くないですよ」 「うっ…返す言葉もありません……」 受け取った紙にサインを書いてニワさんにペンと共に返す。 ニワさんは縮こまる俺の様子におかしそうに笑うとポケットの中を探って、そして何かを取り出した。 「あー、すみません、チョコしかないや。食べます?」 「あ、これ新作のやつですよね?ありがとうございます、頂きます!」 手のひらサイズの箱に入った有名メーカーのそれは今CMなどでも大きく売り出されている話題のものだった。 甘いものは好きだ。このチョコだって前から気になっていたから今度コンビニに行ったときに買おうかしていたくらいで。 腹が減っているのも相まって喜々としながらニワさんから一粒受け取ってそれを口に放り込む。すると固形だったはずのそれはすぐに口の中で溶けていき、あっという間に形を失くしてしまった。 感動に打ち震える。なんだよ、これ、やばいんだけど…! 「こ、これは……め、めちゃくちゃうまい……」 「で、ですよね!よかった、お口にあったみたいで。もう一個どうぞ」 頬を少し染めながらも嬉しそうに笑うニワさん。 この人はいつもなんていうか、素直で一直線で、わかりやすい。裏などないような人で、その反応はまるで犬だな、とぼんやり考えながら礼を言ってチョコをもう一つ受け取った。 「あ、あの、イトさん。今度、…あの、よかったら……」 「?」 何か言いづらいことを言い出すように口の中で言い淀むニワさんに首を傾げる。 なんだろうか。不思議に思いながらも続く言葉を待っていると不意に、携帯の着信音が聞こえてきた。 「あっ、すみません!お客さんだ…」 「ああ、気にしないで出てください」 頭を下げて慌てた様子で電話に出るニワさん。 その間盗み聞きするのは気が引けたので気を紛らわすように届いた荷物に目を向けて伝票を確認する。 差出人は、えーっと……やっぱり実家からだ。中身はなんだろう。伝票には特に何も書いてはいない。いつもは大体何かしら書いてあるのに珍しいな。不思議に思いながらも手持ち無沙汰になり、結局なんとなくニワさんに目を向けた。 「はい、赤印運輸です。…はい、はい。二丁目の、鈴木様ですね。…はい。ああ、大丈夫ですよ。はい、今からですね。……はい、かしこまりました。失礼いたします」 何かを確認してからすぐに通話を終え、携帯をポケットにしまってため息を吐くニワさんの様子に、珍しく疲れているみたいだなと思う。 不在だともう一回配達しなくちゃいけないのが大変だよなあ。 俺は毎日家にいるから再配達を頼むことはほぼないんだけど、仕事をしている人だと受け取れないこともあるだろうし。 「………はあ。すみません。それじゃあ俺これから配達なので、失礼しますね……」 どこか落ち込んだようなニワさんの様子に不憫に思う。 どうにか元気を出してほしくって、閉じた玄関の扉を開けようとこちらに背を向けるニワさんの名前を呼んで引き留めた。 「ニワさん。今度飯でも行きませんか?俺、美味しい居酒屋知ってるんですよ」 美味しい物でも食べれば元気も出るだろう。 するとニワさんは俺の誘いにまるで花が咲くように、ぱあ、と顔を明るくさせたかと思うと何度も頷いた。 「ぜ、ぜひ!」 ニワさんの背後にないはずの尻尾が見えてつい目をこする。この人の前世、本当に犬だったんじゃないか……? そしたら、また連絡しますね。そう告げるとニワさんは嬉しそうに笑った。 「それじゃあ、また…!」 「はい。ご苦労様でした、それじゃあまた」 名残惜しそうに扉を閉めるニワさんに小さく手を振って見送る。 そういえば、軽い感じで誘ったけれどニワさんとご飯に行くのは初めてかもしれない。何度か配達のついでに家の中に入ってもらった事はあるけれど、それこそオフの時間を一緒に過ごすのは今回が初めてになる。 そうか、ご飯行くのが楽しみだな。 外出先、ニワさんの緊張した様子が易々と思い浮かべることが出来て、いつ連絡をしようかと一人微笑んだ。 .

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