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第4話
あんなやつ、大嫌いだ。
ずっと大嫌いだった。
中高一貫のこの学校に入学してからずっと。
中学の時にあいつは教師を殴って謹慎になっていた。その時にも、あの間延びした声で言い訳していた。
イライラする。
なぜ何にも本気にならない?せめて普通に生きる努力はしろよ。なんで問題を起こそうとするんだ。
イライラして、ノートは黒ボールペンでモヤモヤがたくさん出来た。
「…紀田くーん、居る?」
「…」
「居るのは分かってる。さっき部長さんから行き詰まると紀田くんは部室に篭って悩んでるって聞いちゃったから」
曇りガラスにあいつの影が映る。
無駄に身長の高いあいつ。
そうだ。それもイライラの要素だ。
せっかくの身体を何にも使わないなんて。
「入りたきゃ入れよ」
「わーっ、やっさしー」
内側から掛けていた鍵を外すと、星野は遠慮も何もなくズカズカ入ってきて、俺の向かいの椅子に座った。
「さっきはごめんね。とりあえず、反省はしてる」
「別に、あれは俺も悪かったし」
「あー…そーゆーのいい。俺が悪い」
「はぁ?」
特に意味もなくノートをさ迷わせていた視線を星野へ移した。
「俺が紀田くんのこと怒らせようと思ってしたことだから」
「…どういうことだよ」
ますます意味がわからないし、しおらしい星野なんて気味が悪い。間延びしていない声がこんなに居心地が悪いなんて。
「…それは…まだ知らなくていいよ」
「意味がわからん」
「もう少ししたら、教えてあげる。でもほんとに紀田くんがいやならやめるからさ、こういう今までイライラさせてたこと」
「わかってたんじゃねぇか。俺がイライラしてたの」
さっきから星野がものすごく挙動不審だ。
手持ち無沙汰なのか、右手で俺のノートのページを弄る。
「分かってた…。ごめんね」
「しおらしい星野なんてきもちわるい」
「俺だって反省くらいするわー」
そういうとにへらと力なく星野が笑った。
「お前は笑ってた方がいい」
「でもゲラゲラしてんの嫌なんだろー?」
「うるさくなければ別に害もないしな。少し笑ってるくらいがいいんじゃないか」
「…そっかー…うん、ありがとう」
あんなに嫌いだったのに、今こうして話してみて気づいた。俺は会話をする努力もせずにあいつを苦手なやつのカテゴリに入れていた。
話してみると意外と(というと悪いが)普通に会話出来るし、そこまで嫌悪する必要も無かったのかもしれない。
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