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第5話
「…なーんかお前ら最近仲良くない?」
「えっ」
少し探るように上目遣いをしてくるこのサラサラ黒髪短髪イケメンは…陸上部女子の方の部長笹川。そう、女子なのだ…。
「そ、そうか?」
「ちょっと前まで星野と紀田って仲悪くなかった?」
「んー、そーだっけー?忘れたー、あははー」
その発言に視線をさ迷わせてしまうくらい慌てた俺に対して、星野は何も考えていないような顔で口を大きく開けて笑った。
いつからか、こいつの大笑いも嫌じゃなくなった。
今俺は、部活を辞めている。
部長にも顧問にも止められたが、もう決めたのだ。1度決めたことは変えたりしない。
部活は辞めたが基礎練はほかの部員と同じ時間に来て、隅の方でやらせてもらっている。
大学受験に本腰を入れることにしたが、受験も体力勝負だからだ。
「…匠 ?」
「え、何」
いつからか、星野は俺のことを下の名前で呼ぶようになっていて俺にも名前で呼べと強要する。
でも意固地になっていた俺はずっと星野と呼び続けていた。
「ほらこれ。やるよ」
「えっ、これ昨日俺が欲しいって言ってたやつ!!あ、ありがと」
「ふふーん。嬉しいんだろー」
大層なものではなく、期間限定の味のお菓子だ。これのノーマルなチョコレート味が大好きで、1週間に1箱は消費する生活をしていた。そして昨日から期間限定でいちごみるく味が出たので、「欲しいなー」なんて何の気なしに呟いていたのをこいつは聞いていたらしい。
「昨日は『自分で買えー』って言ってたのに…。ツンデレか!」
「へへ、いやー、なんつーか朝コンビニ寄ったら売ってたからとりあえず買ってみたー」
「ふぅん…ありがとう」
そんな俺達のやり取りを見て、笹川がニヤニヤしだした。
「最近仲いいって思ったらお前ら付き合ってんの?」
「つきあっ…え!?」
「えー、やっぱそう見えるー?…ってふざけんなー、あはは!」
驚きで何も言えない俺に対してひとりでノリツッコミしている星野。
「やっぱ違うか」
星野の横で同じように豪快に笑う笹川にため息をついた。
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