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第8話
「ほら、草野も言ってるし、匠もバスケ出ようよ!そうすればみんなハッピー!」
「ね、ね?紀田〜、出てよ〜」
気持ち悪いくらいにすがり付いてくる草野の腕を払いきれずに居たが、面倒くさいからとりあえず頷いた。
「わかった!わかったから離せ!」
「うおー、ありがとう!紀田、星野!これでうちのクラスのバスケは優勝間違いなしだ!」
カタチだけの礼の言葉を述べるとさっそくエントリーシートに俺と星野の名前を書き始めた草野。
「でもちょっと待て」
「え?何?」
「俺は補欠だ」
「あー、…うんわかった」
ここで俺の言葉を呑まないと、やっぱりドッジボールにすると言いかねないと判断したのか、草野はさっきまでの態度はすっかり消して、大人しく俺の名前を補欠の欄に書き入れた。
「えっ、ちょっと待ってよ!そしたら匠と一緒に戦えないかもしれないじゃん!」
「俺が正式な選手として出ても足でまといだろ。それに、どうせ優勝するなら何回も試合するだろうし、疲れたやつと交代なりなんなりするから。多少は試合出る」
「うーん…でも無理言って入れたわけだしなぁ。しょうがないか…。あっ、でも補欠ってことは休憩の時間とか匠に手当てとかしてもらえるんじゃん!なら全然オッケー」
「ばーか、何怪我する前提で話してんだ」
いつものノリでかるーく星野の頭を叩くと、草野がポカーンと俺たちを見ていた。神経質そうなブルーのメガネが傾いている。
「…なんかほんとお前ら、急に仲良くなったよなぁ。今のちょっとびっくりした。…なんか新婚夫婦みたいで」
「は、はああああ!?」
「やったじゃん、匠。まさに俺らだよ!」
「お前誤解を生むような発言すんな!俺らはそんなんじゃないだろ!」
焦ってきつい言い方をしてしまったからか、ショボーンとして頭をたらした星野はつむじ当たりを俺の胸に押し付けてくる。
星野の撫でろの合図だった。
しょうがなしに頭を撫でてやると嬉しそうに起き上がる。
そしてその一連の流れを見た草野がまたメガネをずらした。
「あ、じゃあ、これでエントリーしちゃうんで!なんか…お邪魔しました!」
「あっ、ちょ!」
「ふふふ、新婚夫婦だってー」
なぜか嬉しそうにニヤニヤしている星野をまたどついた。
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