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第12話
「紀田くん?」
視線の先の星野とは正反対の方向から俺の名前を呼ぶ声がした。
「あ、桜田…」
「紀田くんも映画觀にきたの?」
「おう」
桜田は同じクラスのダンス部のやつだ。ダンス部と言っても星野に比べたら断然真面目でチャラい部分は見られない。俺は大体誰とでも話すが、桜田とは選択科目が同じということもあって、最近はよく話すのだ。
「あれ?もしかして紀田くん、星野くんと観にきたの?」
気づくと俺の隣に星野がいつもの笑みを貼り付けて立っていた。
「桜田ちゃんじゃーん」
「2人、最近すっごい仲良しだよね、ふふふ」
桜田は手に持っていた携帯電話で口元を隠した。何故かものすごく笑っている。
「そーだよー。俺の匠だから取っちゃダメだよー」
「ああもうほんとありがとう星野くん、ごちそうさまです」
「えええ、何もしてなんだけど」
「もう本当、ご褒美!感謝!2人のラブラブを休日まで見れてほんと…」
…そうだ…忘れていた…。桜田は…。
「最近もう夢にも2人出てくるから。しかも3回に一回の頻度で付き合ってる」
「えええ、それ出演料出してよねー?」
星野、そういう問題じゃないと思う…。
「3回に一回って…どれだけ俺らの夢見てんだ…」
「ちなみに俺と匠って夢だとどっちが受け?」
「おっ、おい!そんなのいいだろ!」
じつは俺は桜田から以前この夢の話は聞いていた。
でも星野は初めて聞いたようで、なんだかワクワクした表情で桜田に問い詰めている。
桜田は止めようとしている俺と目の前の星野を見て、戸惑っている。
言いたいけど、紀田くんに怒られそう…。まあ考えていることと言えばそんなもんだろう。
そう、桜田は腐男子ってやつだ。
普通に会話していれば何ともないが…こう…時々発作のように語り出す時がある。
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