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第36話

「んっは!いい匂いする!!!わああああ!すげえ!!…いった!」 「彩うるさい。近所迷惑」 「たくは星野の保護者みたいだな、はは」 ドタバタと廊下を走り、勢いよくリビングに入ってきた彩の頭を叩く。 いくら造りがいいといっても、今の音は下に筒抜けだ。 「保護者とか辞めてよね!流星くん!彼氏だから!」 「ちょっ、…えっ。え!?」 「んー、匠ー。かわいいー」 「きもい…。なにこれ…」 強く抱き締められて、跳ね返す気力もない俺は彩のなすがままにされていた。 きもいと呟いたことに対して何とも思わなかったのか、それとも聞いてすらいなかったのか、彩は突っ込んですらこない。ただただ、グリグリと甘えたようにつむじを押し付けてくる。 「うわぁ…いちゃつくのは飯食ってからにしろよ」 「星野…はは。凄い愛情表現…」 草野は失笑、というか困ったように笑っている。それをみて、流星が不安そうに肩に手を乗せた。 「夏樹もああいう風にぎゅっとされたいの?」 「えっ!?何言って……はやく食べよう!パスタ固まっちゃうよ」 「あ、ああ…」 俺達の方が付き合い短いのに、流星たちのほうがウブで赤くなっている。 とりあえず俺は彩の胸を押して、席につくと、隣の席の椅子をひいてやる。 「ほら、彩も。はやく座れ。色々すんのは飯食ってから」 「おおお!やったー」 「お前は落ち着け」 「うわー美味しそうー!!いただきます!」 「話し聞けよ…」 彩は席につくも落ち着かず、キラキラした表情で並んだ皿を眺めると手を合わせた。 まずはサラダにフォークを突き刺す。 俺もサラダに手を伸ばしていたが、反応が気になって野菜を口に運ばずにいた。 「んんん!なんか凄いレストランみたい!」 想像以上に驚いてくれたが、語彙力の無さに笑いがこみ上げてくる。 「匠何笑ってんの?あ、これ匠作?」 「そうそう。それ、ドレッシングも俺が作ったやつだから」 「えー!だから初めての味だったんだー。匠すげえ」 俺の両親が市販のドレッシングは好まず、以前から俺がドレッシングを作っていたのだ。今日作った訳では無いが、それをかけただけで俺の家のサラダの味になる。市販のものより塩分だって控えめだし、俺の母親のお気に入りだ。 「あーこれたくの手作りだったんだ。前からこの味だから市販のやつかと思ってた」 流星は1口サラダを食べると皿を置いて納得したように頷く。そしてそれを見て何故か彩はサラダを口にかきこんだ。 「んんんっ!うまいー!はい俺の勝ちー」 「ははっ、星野は匠大好きだな」 「彩お前行儀悪いぞ」 「えーだって流星くんばっかり匠のこと知っててやだー」 駄々をこねる彩に草野が微笑ましい光景を見ているかのように向かい側でニコニコしている。 俺としてはだいぶ大体力消耗させられたけどな…。

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