3 / 106

第3話

「えと、ということで……オメガだと診断されまして」 自宅のリビングにて、アツシは弟分達と向かい合っていた。 何だかとてつもなく居心地が悪いのだが、別にこればっかりはアツシのせいではない。仕方のない事だ。 2人は眉間にシワを寄せたままだ。困ったようにアツシは2人を見つめる。 「ちっとフェロモンが弱いだけでオメガであることは変わらねーんだな?」 タイガの念押しにアツシは頷いた。医師からもそう聞いている。 アツシはフェロモン量が少ないだけでヒートが来ないわけではない。 ヒートも来るし、場合によってはアルファやベータを引き寄せてしまう。 あまり考えたくはないがそういった行為も可能だ。……妊娠も、一応出来るらしい。 考えたくないが。 「オメガ性にはなったけど、俺自身は変わらないから、出来ればこれからも変わらず一緒に過ごして欲しい」 アツシの言葉にタイガは頷く。 「当たり前だ。オメガだからって蔑ろにする気はないっつーの。ただ、今まで通りかっていうとそうはいかない所もある」 「なん、で」 今までとは違うと言われて、アツシ動揺を隠せなかった。 もしやこれは拒絶されているのだろうか。 アツシの目にじわりと涙が浮かぶ。 それを見てタイガは慌てて続けた。 「ちげーっつーの!アツシはこれからヒートも来るし、いつかは番を作らなきゃいけなくなるって話」 拒否されるのだと思ったアツシはほっとして息を吐き出す。 タイガ達に拒否されてはアツシは生きていけない。 そのくらい、彼らがアツシにとって大事だった。 「オメガの性犯罪被害者率の高さは知ってるだろう!そういうのに巻き込まれない為にも、アツシはちゃんと番を作るべきだ。勿論、俺らはずっと一緒にいるよ。だけど、俺はちゃんとアツシには幸せになってもらいたい」 「でも、俺は殆どフェロモンは出てないって…」 そう口ごもるアツシにタイガは首を横に振った。 「ちゃんと出てたよ」 「え?!そうなのか?」 「あぁ。すっごい微量だったけどちゃんと匂いしてたし、そもそも初めてのヒートって弱いらしいじゃん。これからもっと強くなるかもしんねーだろう!」 確かにタイガの言う通り、オメガの初めてのヒートは弱い場合が多い。 殆どが急に起こったヒートに引っ張られること無く周囲の者が対応し事なきを得る。 極たまに重度の者が性犯罪に巻き込まれたり悲劇を辿るのも確かなのだが。 そして身体がヒートの反応に馴染む程、フェロモンの量は強くなる。アツシもフェロモンがこのままとは限らない。 むしろ一般的に従うならば多くなることだろう。 タイガはそれを危惧しているのだ。 番のいないオメガは身体的にも辛いが何より精神的にも辛いらしい。 ヒートの間は理性よりも本能が勝る。本能的に番を求め、通常であれば1週間、24時間寝る間もなく相手を求め続けるのだ。 殆どのオメガがそれに耐えられず恋人や、臨時のそういった行為をしてくれるアルファに逃げる。 それによって誤って、もしくは本能に負けてうっかり番になってしまったオメガが捨てられて自殺するニュースが後を絶たない。 タイガはそれを心配していた。 タイガの言うことはもっともなのだが、アツシはまだ正直自分がオメガになったという事実を受け止めきれていない。 今すぐ番をと言われても頷くことは出来なかった。 「ユキオは、」 途中まで尋ねようとしたものの、続きが出てこない。 ユキオが眉間にシワを寄せたままさっきから一言も発さないのだ。 もしかして拒否されるのでは、と悩むアツシにユキオは斜め上を行くとんでもないことを言い出した。 「アツシ、俺と番になって」 「「は……?」」 それはそれは綺麗にハモりながらタイガとアツシはユキオを呆然と見つめる。 「どうせいつか番作るなら、今、俺と番になって」 身を乗り出し、腕を掴まれたアツシは素っ頓狂な声を上げる。 「……は、え?……え?!」 反芻してようやく言われている意味を理解したアツシは驚いて手を引っこめるがユキオが離してくれなかった。 「待て待て!なんでそーなった!」 タイガも慌ててユキオを止めにかかる。それにユキオは唇を尖らせた。 「だって、番作ったら、もう今まで通りいられないんでしょ。なら、俺と番になって。もしくはタイガと番になれ」 だからずっとここに居て。 言わんとしてる事を理解してタイガが頭を抱えた。

ともだちにシェアしよう!