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第4話

ユキオとは彼が小学校低学年のころからの付き合いだ。 アツシが中学の頃この町に引っ越して来たのだが、その日のうちに迷子になり一緒にいたタイガに声を掛けられたのが始まりだった。 まぁ中3にもなって迷子になり、挙げ句の果てに小学生に助けられるなんて今考えてもだいぶ情けない話だが。 しかしその頃からユキオは変わっていない。 ユキオは3人いつまでも一緒にいるのを望んでいる。ただただ一途な程に。 この関係性を歪めてでも一緒に居たいと思っているのだ。 ――その理由は分かっている。 ユキオは物凄く見目整った容姿をしている。 青みがかった白の髪、真っ白に縁取られた長いまつ毛、そしてこの中央にはめ込まれた深い青のビー玉の様な美しい瞳。 肌は陶磁器色という言葉が相応しい滑らかさだ。運動もしているので程よく筋肉もあるが細身なので青少年特有の危うさと儚さも兼ね備えている。 この容姿のせいでユキオは老若男女問わずモテる。 大体がアルファであるユキオに憧れを抱いているのだが、時折アルファから歪んだ目で見られている。 ユキオをオメガと信じて疑わず、運命の相手だと言い寄られるのだ。勘違いも甚だしい。 それにうんざりしていることも、容姿しか見てもらえない事実に心の奥底で傷付いていることも知っている。 簡単に言えばユキオはアツシ達に依存していた。 しかしそれはユキオに限ったことではない。 アツシやタイガもまた、お互いがお互いに依存している。 その自覚はアツシにもあった。 ずっと一緒にいる、それは自分たちの中でいつしか当たり前のこととなっていた。 それが今、アツシがオメガだったという事実で壊れようとしている。 ユキオはそれが不安で仕方ないのだろう。どうにかこの関係を保とうと歪にしがみついている。 しかしだからといってユキオやタイガの人生まで巻き込む訳にはいかない。 「俺は誰とも番にならないよ。先生が言うにはフェロモン量もあまり多くはならないらしいし、ヒートもすぐ治まったし」 昔から頭痛薬とかはすぐ効くタイプであるし、恐らくだがアツシは薬が効きやすい体質だと思うのだ。 だから番も必要ない。 そう言っているにも関わらずこの我儘な弟分(ユキオ)は首を縦に振らなかった。 「ダメ。どっちか選んで」 「いや、だから必要ないって!」 アツシが拒否するがユキオは全く引かない。 「ってか俺の意見はスルーなのか?」 「タイガは黙ってて」 「いやいや!俺も当事者なのに黙れるか!」 最もなことを言うがユキオはタイガの話を聞く気がない。 「ったくよー、お前が心配してんのは分かるけど!アツシの人生なの!勝手に決めるな!」 「タイガ……」 良かった、タイガはまだ正常な判断が出来ている。 アツシはほっとしてタイガを見上げた。 「だから、それは最終手段にしよう。変なのにつかまりそうな時かヒートが酷い時には考える」 全然正常じゃなかった。こっちも手遅れだ! え、俺弟分と番になんなきゃダメななの?! その後1時間掛けて2人の説得を続け、アツシは保留という形までどうにか漕ぎ着け、何とか2人を親元へと返したのだった。 そうして一息着いたアツシはお店へと連絡を入れる。 時刻は10時過ぎ。いつもならようやく人の波が落ち着く頃合いだろう。 何となく電話はしにくくて、アツシはロイさんに直接チャットを送った。社会人としてはあるまじきことだろうが、緊急事態だったので許して欲しい。 無事病院へ行ったこと、オメガ性と診断されたことを書き込む。 悩んだ末、このまま仕事は続けることは可能か尋ねる文面も最後に添えた。 医師にも弟分達にも散々言われて怖気付いてしまったのだ。このまま働いても良いのだろうか。 不安になってベッド上で膝に顔を埋める。 クビって言われたらどうしようか。 バイトし続けて高校卒業と同時に就職したアツシは就職活動もろくに経験していない。 24歳という転職には割と節目の歳で、しかもオメガで、雇ってくれる所はあるのだろうか。 もしダメだったら、ここに住み続けることは難しいだろう。 かといって両親にもまだきちんと話をしていない。 実家へ戻るとなればやはりこちらもまたきちんと話さねばならない。 考えれば考える程色々な問題が浮き彫りになってくる。 じわりとまたアツシの目に涙が浮かんだ。 アツシは元々感情の振り幅が広いというか、涙脆いというか。すぐに涙腺が緩んでしまう。 こんな重要な時だと言うのになんと情けないことかと自分で自分に失望して項垂れた。 と同時にチャットを告げるスヌーズ音が鳴る。 ビクリと肩を跳ねさせ、アツシは恐る恐る画面を見た。 送信元はロイさんからで、きちんと病院へ行ったことを褒める内容と、仕事は勿論続けて欲しいという旨が書かれていた。 「はぁぁぁ……」 それを見た瞬間、どっと全身の力が抜ける。 良かった……クビになったらどうしようかと思った。 アツシはお礼の文面を打つと明日も出勤する旨を告げる。 それが送信されたのを確認するとホッとしてそのまま眠ってしまった。

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