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第15話
アツシは自分の容姿を思い浮かべてみた。
割と長身でそこらによくいる黒髪。
まぁ、目はシルバーに近いグレーなので変わっているといえば変わっているが黒髪なのであまり目立たない。
顔のパーツは整ってはいるものの、華がないと称される。
決して不細工ではないが、オメガらしいかと言われると首をひねる容姿だろう。
だというのに、結果はオメガ性を指している。その事がまだ頭を占めていた。
アツシがぼぅっとそんなことを考えているうちにユキオとタイガの間では小競り合いが勃発する。
「いってぇー!!」
まさかの蹴りにタイガが悶絶した。見目とは裏腹にユキオは割と手足が出るタイプだ。
子供の頃から喧嘩すると大抵タイガがボロボロになっていることが多かった。
逆にタイガは体格の事もあり、口では文句を言ってもあまり自分から手を出すようなことはしない。しかししっかり煽ることはするのでこうして喧嘩になるのだ。
「こらこら、喧嘩しない」
見兼ねたアツシが間に入るとユキオはタイガに対してべ、と舌を出した。それに対してタイガはイーッと変顔をして対抗する。背が高くなってもそういうところは変わらない。
「せっかく作ってくれたんだから一緒に食べよう」
「ほいほい。よそうからアツシは座ってろ。ユキオ、茶碗」
「タイガのくせに指図するな」
そう言いつつもユキオは棚からいつもの食器を取り出す。
3人分の食事をテーブルに並べると定位置へと腰を落ち着けた。
アツシの右隣がタイガ、左隣がユキオの定位置だ。
それを確認し、ふと食事に目をやるとアツシはパチリと瞬く。
「なんか……俺の多くないか」
出された食事はいつもより量が多かった。
タイガやユキオはばくばくとそれは気持ちいいくらいの食べっぷりを発揮する。
アツシ宅のエンゲル係数ははほぼこの2人が上げていると言ってもいいだろう。
「どうせ1人の時は食べねーんだから丁度いいだろう」
「……無理」
「無理じゃねーこのくらいフツーだフツー!また具合悪くなるぞ」
「いつの話してるの」
一度、アツシは仕事が忙しくて倒れた事がある。その原因が食欲不振だった。
その一件があってから、2人はやたらと食事時に突撃してくる。単に腹を空かせているのも勿論あるだろうが。
「文句言ってないで食べれば?」
味噌汁を啜りながらユキオが呟く。
その通りなのでアツシは文句をやめて大人しく手を合わせた。
「いただきます」
「召し上がれ!」
タイガの料理は豪快だが味付けはアツシに似ている。
いや、アツシに似ているというよりアツシの母親に似ているのだろう。
2人ともよくうちでご飯を食べていたし、アツシも母の味付けで料理を覚えたので自然とそうしている。
一緒に過ごしているとそういうものは共有されるらしい。
慣れた味付けは食べやすいとはいえ、なかなか食べきれない。
先に食べ終えた2人はそのまま他愛も無い話をし始めた。2人はアツシが聞いていてもいなくとも近況を勝手に話す癖がある。多分習慣になっているのだろう。
なるべく聞こうと努めてはいるが、同時に話されるとそれも難しい。なんの話かと食べながら懸命に耳を傾けると話の内容はユキオのストーカーについてだった。
「――それでさー、結局こいつのこと付け回してたの男だったわけ」
待ってそれ全然他愛ない話じゃない。
「……チッ。ホント最悪」
今思い出しても腹が立つとユキオは目を釣り上げる。美人は怒ると怖いというが本当らしい。
普段から棘がある表情だが、今は虫けらでも見るかのような表情だ。
「まーたオメガだと思われたんだろうなー」
昔から変な人に声をかけられる度に一緒にいるタイガが撃退していた。高校生になってもそれは変わらず……というかむしろユキオの見目がどんどん良くなるので悪化の一途を辿っていた。
最近ではアルファであっても構わないから恋人になってくれというアルファまで現れ始めた。
それにうんざりしていることも、容姿しか見てもらえない事実に心の奥底で傷付いていることも知っている。
「だ、大丈夫だったのか?」
アツシは心配になって食事の手を止めて眉根を寄せる。
それに対してタイガはケロっとした様子でヒラヒラと手を振った。
「大丈夫、相手は無事だ」
「いやそっちも大事だけど」
そうじゃない。
いやこっちは有段者だから確かに大事だけど!
ユキオは合気道を、タイガは柔道を幼少期から習っているのだ。
「こいつ問答無用で放り投げるからあぶねーんだよ」
「クズにやる慈悲はない」
凄い剣幕だ。一体相手の男は何をやったんだ。思わずタイガの方を見る。
「あー、いきなり暗がりに連れ込んで襲おうとしたからな」
それはクズだな。反撃されても仕方ない。
「何もなくて良かった」
「大丈夫大丈夫。ピンピンしてらぁ」
「お前が言うな」
ケラケラと笑うタイガにユキオがツッコミを入れる。
タイガが笑っていられるのはそれだけユキオの周りに気を張っているからだ。
ユキオを守るのはいつも一緒にいる自分だと思っているのだろう。実際タイガはユキオを大いに助けている。
まぁ、そのせいで余計にユキオがオメガだと思われる悪循環に陥っているのだが。
「で、アツシの方はどうしたわけ?」
「ん?」
え、何?
2人の友情に親心のような感動を抱いているといつの間にか話が変わっていた。
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