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第16話
「な、何が?」
思わず口籠るとタイガはニコリと笑う。
顔は笑っているが雰囲気が笑っていない。
「そんな疲れる程何があったのかと思ってな」
あ、これはこの話をする為の付箋だったのか。
ユキオを見れば冷めた表情でこちらを見ている。
恐らくユキオをけしかけたのはタイガなのだろう。失敗したのでプランBに変更したというわけか。
なんと言い訳するか迷っているうちにタイガが唇を尖らせる。
「はい時間切れー!すぐ答えられない時点で隠し事あるのバレバレですぅー!!」
大人しく吐けと両隣から詰め寄られ、アツシは渋々昨日あったことを白状した。勿論全部を話せばさっさと辞めろと迫られるので変な客に絡まれたというところだけだ。
ロイさんの部分は全てなかったことにした。
「……はぁー」
話を聞いたタイガが深いため息を吐く。
ユキオはというと、眉間にシワを寄せたまま沈黙を貫いている。怖い。
「アツシもう少し自衛しろ」
「う……はい」
タイガに言われ、アツシは首をすくめた。
その通りなので何も言えない。
その後一時間ほど二人からたっぷり自衛についてこんこんと説かれることとなった。
長いお説教の後、アツシはとりあえずシャワーを浴びようと浴室へと移動してきた。
長かった。こんなに長くこんこんと説かれたのは倒れた時以来かもしれない。
タイガとユキオは洗い物をしてくれている。とりあえずさっさと浴びてしまおうと勢いよく上を脱いだはいいものの、そこで困ったことが起きた。
首輪が外せないのだ。
そもそもロイさんが勝手につけたので外し方を聞くのをすっかり忘れていた。
首輪はものによって付け方が違う。
ただの輪っか状のものもあればアツシが貰ったもののようにボタン式だったりナンバー式だったりする。ケータイからパスワードを入力するタイプのものもあるらしい。
「……これどーなってるんだ?」
触れた感じではナンバー式ではない。
ただの輪っか状でもなさそうだがどうなっているのか。
浴場の鏡の前に立ち、とりあえず境目がないか鏡越しに見てみるがイマイチわからない。
こういうのは真後ろから外すものだと思っていたが違うらしい。後ろ側に境目は見えなかった。
風呂場でアツシが四苦八苦していると、いつの間にか入り口のところにユキオが立っていた。
それを鏡ごしにちらりと確認すると声を掛けられる。
「外せないの?」
「うん」
首元に視線を向けたまま頷くと小さなため息が聞こえた。
「………見せて」
浴室へと入ってきたユキオは首輪に触れると何やらカチャカチャと弄り出す。
暫くそうしているとカシャンと音を立てて外れた。
「ありがと」
外れた瞬間、開放感にほっと息を吐き出す。
やはり慣れていないのでずっと違和感があったのだ。
家にいる時くらい外していたい。流石に家の中でのことまでロイさんは干渉して来ないだろう。
それよりどうやって外したのか聞いておかなければ今後自分で外せなくなる。
まさか毎回ユキオを呼ぶわけにもいくまい。
そう考えていると浴室にユキオの地を這う様な険しい声が響いた。
「……それ、どうしたの」
「それ?なんかついて…………あ゛」
一瞬疑問符を浮かべたが、すぐさま首に痕があることを思い出し顔を青くした。
ヤバい、外すのに夢中になって完全に忘れてた。
「この痕……何?」
痕とはロイさんに付けられたキスマークのことだろう。触れられると鈍い痛みがある。痛みから逃れる様に少しだけ体を捻って後ろへと下がる。
昨日付けられた時もかなり痛かったのでキスマークにしては多分だいぶ痛々しいことになっていそうだ。
ちらりと鏡を見ればかなりどす黒い痣が首元に見えた。
うーわ……これキスマークじゃないもう怪我だよ。
アツシが自分の首元にドン引きしているとガシリと二の腕を掴まれる。
「ねえ、何これ?」
じわじわとアルファのフェロモンがもれ始める。意図的に出しているというよりは感情が高ぶったことで無意識に威圧しているような感じだ。
ビリビリとするような圧を感じてアツシは冷や汗を流した。思わず一歩後ろへと下がるとユキオも同じく一歩踏み出てくる。
「いやー、これは、その」
しどろもどろになりながら何とか言い訳を考えようと頑張っては見るがすぐに思いつかない。完全に固まってしまったのを見てユキオは眉間にしわを寄せた。
「噛まれたの……?」
「か、噛まれてない。痕付けられただけ」
「……だから言ったじゃない。俺かタイガか、選んでって」
ユキオの圧はどんどん強くなる。
押し潰されるような息苦しさを感じてアツシは喘ぐようにしてユキオを押し返した。
「ユキオ……それ、やめて……苦し…っ」
「……これ、あの人でしょ」
あの人、とはロイさんのことだ。
ユキオはロイさんが嫌いだ。
原因は十中八九彼の性格だろう。基本的にユキオはタイガとアツシ以外には塩対応だが、ロイさんの時は特別酷い。
絡まれるのも嫌いな上、ロイさんがアツシで遊ぶのが気に入らないのだろう。
だから、何となく彼がやったことは直感で分かるらしい。
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