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第21話
「だ、大丈夫なのか?」
「ふふ、ふふふ……いっつもいっつも僕にばかり押し付けて……。この前だってあれほど依頼人が来るから遅れないようにって言っておいたのにあの人1時間も遅れたんですよ!しかも!その理由が風俗に行ってたからとか……本当に最悪です」
「そ、そうなのか……」
リョクは死んだ目に一抹の怒りを乗せながら拳を握りしめる。
あ、これは本気で怒っているな。
普段穏やかな彼だが、シキさんのこととなると怒りを露わにすることが多い。
それだけ気心が知れた仲ということなのだろうがあまりにも怒ってばかりだと心配になる。
「前回の依頼料は飲み代にみーんな使ってしまったんですよ!?だから今度こそはと人が意気込んでいればこれですよ。ほんっとにもう、どうしてくれましょうか……」
リョクは笑顔も忘れて目くじらを立てている。
アツシは思わず苦笑を返した。
シキさん、相変わらずなんだなぁ。
前からシキさんは自由を謳歌しているというかやりたいことを好きにしているイメージではあったがまだそれは続いていたらしい。
ある意味ロイさんとは似た者同士というわけだ。
彼らが友人なのもよく分かる気がする。
ハッと我に返ったリョクは誤魔化すようにコホンと咳払いをするとアツシの方へと向き直った。
「アツシこそ、バイト先の面々とは上手くやれてるんですか?」
アツシはバイト先のメンバーのことを思い返してみる。
キイトはまぁそもそも彼が懐いてくれているので上手くやれているというか、仲良く出来ていると思う。
チャロはいい子なので問題ないし、シマさんは親切だし、コテツさんは……少し怖い。でも怖いだけだ。あちらには嫌われてしまっているようだが、アツシ自体は別に嫌いではない。プロ意識を持っていて、仕事にはとても真剣な人だから自分も頑張らなければと身が引き締まる。
マキさんは……別に嫌われてるわけではないし食事の面では少々思うことはあるものの、親切にしてもらっている。
問題はロイさんだろう。
アツシにとってロイさんは少し困った上司だった。
休日もジムに付き合えだコーヒーを淹れろだ買い物に行くだと何かしら理由をつけて呼び出してくるし、すぐ無茶を言う。でも、別に嫌いではないし苦手意識もなかった。
自分で言うのもなんだが、寝れば不満も怒りも忘れる性格をしているのであまり溜め込んだことはなかった。
――今までは。
今はどうだろうか。
急にキスマークをつけられたり、触られたりと、何が何だかわからないまま自体が進んでいてどうすればいいのか分からない。
『首輪、僕の前では外して。嫌なら、このまま番になろうか』
何でそんなことを言ったのか、アツシは理解できていなかった。本人に聞いてみるのもありだとは思うが、果たしてきちんと答えてくれるのか。
アツシが百面相してうんうん唸っているとリョクは困ったように笑った。
「ロイさん以外の面々とは上手くやれてるんですね」
「うん、まぁ……」
ロイさんのことになるとつい憂鬱になってしまう。
そんな中、リョクは力強く言い切った。
「いいですかアツシ、シマさんは絶対キープですよ」
「な、なんの話……」
何をキープするんだろうか。
「絶対1番害がない」
「まぁ確かに害はないだろうけど」
「キイト君は流されやすい性格ですから万が一フェロモンが強くなった時が分からないですし、コテツさんはあの性格ですから。アツシとはあまり反りが合いませんし、マキさんはアルファですからね。ロイさんは論外です」
シマさんが1番安全、とリョクははっきりと告げた。
まぁ、言いたいことはわかる。
チャロはそもそも女の子なのであまり頼る対象としてみるのは本人にも悪いだろう。まぁ、いざとなれば彼女の方が強いので頼るのはありだとは思うが。
「ベータだって前言ってましたし奥さん一筋ですから安心です。それにあの温厚な性格ですから困っていたら絶対助けてくれます。いざとなったらシマさんに頼るんですよ!」
「分かった分かった」
今度はアツシが困ったように笑う番だった。
「お互い、無理しないようにな」
「ええ、まだ今の状態に慣れてないでしょうから本当に無理しないで下さいね」
体調管理は基本です、と言ってリョクは遠い目をした。
まだ話してないことがあるらしい。
あまりにも疲れた様子に、それはまた次回聞くことにしようと心に決めた。
「おっと、そろそろ時間なので今日はこれで失礼しますね。またいつでも連絡下さい」
落ち着いたら僕も連絡しますね、と言ってリョクは帰っていった。
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