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第22話

※基本情報にキャラDATA掲載 「キイト、3番テーブルお願い。チャロ、次そろそろあの席空くから準備して」 的確に指示を出しつつ、アツシは辺りを見渡した。 どんなに突拍子も無いことが起きようとも、日常は止めることは出来ない。 ヒート自体は無事その後3日ほどで終了した。やはり通常に比べるとかなり短い方らしい。 薬で完全に抑えられる量のフェロモンしか出なかったのが幸いだった。フェロモンの量によっては薬では抑えられなくなるらしい。 少なくて良かった……! 唯一アツシはそのことに感謝した。そんなわけでバタバタしながらも仕事をなんとかこなす日々を送っているアツシである。 色々考えたいこともあるにはあるのだが、いつも疲れ切って考えるどころかブラックアウトして一日が終わってしまう。 目が覚めたら慌てて家事をして身支度をしてという具合だ。 ロイさんはというと、あれからそういう接触をしてきてはいない。いつも通り呼び出されたり荷物持ちをさせられたりはするが、それだけだ。 正直どうしたらいいのかわからなかったのでもしかして飽きたのかな、と内心少しホッとしていた。 しかし首には未だロイさんが付けた首輪が付いている。 薄めの革は一見すると柔らかそうだが、オメガ用ということもありしっかりとしている。一人の時に引っ張ったり捻ったりしてみたがビクともしなかった。割と頑丈であるらしい。まぁ、アルファの噛み跡は出血を伴うらしいのでそれから項を守るにはそれ相応の防御力が必要ということだろう。 別のものに変えても良いのだが、慣れてきてしまったのもあり何となくそのままにしている。 深夜一時、最後の客を見送ったキイトが外のボードを仕舞って扉の看板をクローズに変えた。 今日の仕事はこれで終了だ。 良かった、今日も何事もなく一日が終わる。ホッと息を吐き出したアツシはもう少しだと気を引き締めた。 玄関周りはキイトにお願いすることにし、アツシはテーブルを拭いて回ることにした。ついでに置きっ放しになっていた水差しも回収する。 確か飲み過ぎだと言って連れの人がお冷やをしこたま飲ませていた席のものだ。 水差しを持ったまま戻ろうとすると、テーブル下にハンカチのようなものが落ちているのに気づいた。 水差しを一度テーブルへ置き、その下に屈みこんで手を伸ばす。 手に取ってみるとやはりハンカチだった。 それも割と可愛らしいものだ。はて、ここにはどんなお客が座っていただろうかと思考を巡らせてみるが思い出せない。 すると頭上からキイトの声が聞こえた。 「アッシュさん?何してんスか?」 ボードを持ったままキイトがこちらを覗き込む。 「ハンカチが……」 それに答えようと顔を出した瞬間、場所を開けようとキイトが動く。 すると運の悪いことにボードがテーブルにぶつかり水差しが盛大な音を立てて倒れた。 「冷たっ……!!」 「うわー!アッシュさん大丈夫っスか?!」 背中から冷たい感触が伝わってきて初めてテーブルに流れた水を被ったのだと理解する。 しっかりと氷で冷やしてあった水はかなり冷たい。 「タオル持ってきます!」 思わず肩を震わせるとキイトは慌てて更衣室の方へとかけて行った。 あと少しで上がりだというのについていない。 まぁ、仕事中じゃなかっただけマシだろうか。小さくため息を吐いているうちにキイトが戻ってきた。 「ごめんなさいー!寒くないっスか?!」 「大丈夫だよ」 「早く着替えた方が……!」 そうは言っても、そもそも私服はいつも首輪を隠す為制服の下に着ているので更衣室に行っても着替えはない。 着替えられないがキイトは早く早くとこちらを目で急かした。 あまり首輪これを見られたくないのだが、首輪の間に水がたまって気持ち悪い。 つい服の上から首元に触れる。 もういっそバレてもいいから脱いでしまおうか……そう思ったところで後ろから声がかかった。 「あれ、どうしたの?」 まさかずぶ濡れで部下がいるとは思わなかったらしく、ロイさんは目を丸くしている。 「ちょっと水差し壊しちゃって……すみません」 「ちが!俺がぶつかったんスよー!ごめんなさいー!」 「分かった分かった。兎に角キイトは帰りなさい。アッシュ君中に着てるそれは私服?着替えないでしょ。今なんか持ってくるから……とりあえず休憩室に行ってて」 ここ寒いから、と言われアツシは肩をすくめた。 「すみません」 「前の制服でもいいよね?」 「はい」 借りられるのであれば何でも構わない。とりあえずクリーニング必須だな、なんて呑気に考える。 濡れてしまったものは仕方ないとアツシは既に割り切っていた。 「アッシュさんホントすみません……」 しょんぼりと肩を落とすキイトの頭を撫でる。 「そんなに謝らなくても大丈夫だって。ほら、それよりもう遅いから今日は帰りな」 首輪を見られると厄介なのでその前に何とか帰したい。 「でも、」 「俺は大丈夫だから。ロイさんが服貸してくれるし、それに着替えたらすぐ帰るよ」 最初は渋ったものの、キイトは謝り謝り帰っていく。 それを見送り、アツシも休憩室へと移動した。 あぁは言ったものの、やはり寒いものは寒い。 背中にまでぴったりと張り付く布地は冷え切っていた。

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