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第29話

「流石にあのドロドロ具合じゃベッドに寝かせられないからね」 後半完全に意識を飛ばしたことも芋づる式に思い出しアツシは真っ赤になって下を向いた。 「君もう少し太った方がいいんじゃないの」 「…………善処します」 マキさんにもこの前言われたなと思いつつ、あまり頭に入ってこないままアツシは頷いた。 「それとアッシュ君。君もう一度病院行った方がいいと思うよ」 「へ?」 まさかの言葉にアツシは目を瞬かせる。 「あのフェロモン量、どう考えてもおかしいから」 そういえば凄く濃いとかなんとか言われた気がする。 熱くてそれしか考えられなかったのであまり覚えていない。 「でも、最初のヒートは弱いって聞いてたから」 確か先生もそんなことを言っていた。だから多い少ないに関してはあまり気にしていなかった。 人それぞれだと思うんだけどそんなに違うのかな。 「確かに初めてのヒートはフェロモン量が少ないことが多いけど、君の場合極端すぎるから。普通のオメガの半分以下だったのが次のヒートで普通のオメガより上回ってるとかおかしいからね」 その辺りのことはあまりよく分からない。 むしろ自身のフェロモンが一般以上に出ていたのも今知ったくらいだ。 「分かりました……今度行ってきます」 自身のバース性に向き合うことが多くて何だか憂鬱だ。 決して目をそらしていたいわけではないのだが、こうも今までと違うことが多いとため息を吐きたくなる。 つい、と下を向くとロイさんの手が視界に入ってきた。 自身で巻いたのか、手には白い包帯が巻かれている。生々しい血の温かさを思い出してサァッと青くなった。 「ロイさん、手は……」 「大丈夫だよ」 ヒラヒラと手を振っているが何処かぎこちない。 あれだけ出血していれば今も痛いだろう。 そもそもは悪戯を仕掛けてきたロイさんが悪いのだが、咄嗟にアツシの項を庇ってくれたことを思えば自業自得とは割り切れなかった。 アツシは気が小さい上に血も苦手だ。 自分のせいだと思うと心が痛む。 そんなアツシにロイさんは呆れたような視線を送ったものの、すぐに何か思い直したのかにっこりと笑いかける。 「そうだね。アッシュ君のせいだね」 貼り付けたような笑みが何だか怖い。 それに、そうはっきりと顔を合わせて言われると心に刺さるものがあった。思わず下を向くとグイッと肩を掴まれ耳に唇を寄せられる。 「だから――責任とってね」 「ど、どうしろと?」 「んー、とりあえずあんまり使えないから手伝って」 色々と、と含みを持たせて言われる。 ようするに手が使いにくいから荷物持ちとかをしろということだろう。 仕事道具を傷つけてしまったのだ。ただでさえこの人は人前で身なりを気にする。お客の前へと出る時は特にだ。 きっと包帯を巻いたまま人前に出ることはしないだろう。 余計な迷惑を掛ける事になると思うと気が重い。 重ねて言うが、ロイさんの自業自得である……が、アツシにはそう割り切る度量がなかった。 ようするにお人好しというやつである。 なるべく出来ることならばしようと、言われるがままアツシはコクリと頷いた。 それにロイさんは目を細めて笑う。 気にしていたことを話せて安心したのか、ホッとして何だか疲れてしまった。 一度自覚したらどっと疲れが押し寄せて来て思わずお腹を押さえ込んだ。 「……あ、そうそう。忘れるとこだった」 それを見たロイさんはポンと手を打つと棚の方へと歩いていく。引き出しの中を漁ると何かを手に持って戻ってきた。 「はい、これ飲んでね」 手を出されたので思わず受け取る。何だろうと手の中のものを見れば小さな錠剤だった。 「え、これ……」 抑制剤ならもう必要なさそうだが何の薬だろうかとアツシは首を傾げる。 「アフターピル」 「あふたー?」 あまり聞き慣れない言葉で更に首を傾げるとクスリと笑ったロイさんは言い直した。 「避妊薬。後から飲めるやつだから飲んでおいた方が良いよ」 「ひに……っ!?」 ケロッとした顔で持ってきた水に口をつけるロイさんをアツシはギョッとした顔で見上げた。 「忘れてるのかもしれないけど、オメガは普通に妊娠するからね。それもアルファ相手なら高確率だから」 そうだ。そうだった。 色々起きて頭から抜けそうになるがアルファとオメガとは本来そういうものだ。 そしてセックスそういうことをしたのだからこういう話が出てくるのも当たり前なわけだが――なんだか少し物悲しい。 ――いや、なんで落ち込んでるんだ? 自分の中に湧いた感情が理解出来ずに首を傾げる。 オメガであることすらまだ受け止め切れていないというのに子供が出来てしまっても困る。 育てるどころか産める自信がない。あと純粋に痛いのが嫌だ。怖い。 そんなアツシのことは御構い無しにロイさんは手元のシートから錠剤を取り出した。 「飲ませてあげる」 そう言うと錠剤と一緒に水も口に含むとそのまま口付けてくる。 「んむ……っ、」 急なことに口を開けられずにいると、唇を合わせたまま舌先で入口をつついてきた。

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