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第30話
開けろということだろう。
どうせ飲まなくてはいけないのだからと、水と一緒に流れてくる薬を受け入れた。何よりさっきからずっと喉が乾いて仕方ないのだ。
小さなそれはあっさり流れ込んできた。
人の口内に一度入った水は生温いが、今はそれでも十分だ。むしろもっと欲しい。
コクンと飲み込むと舌先で少し遊ぶようにして絡められる。ついうっかりそれに感じ入りそうになるが、身体に力が入るとだるくて仕方ない。
「……はぁ……っ、」
ちゅぱっ、といやらしい音を立てて舌が離れる。
火照ったせいか、余計に喉が乾いて仕方なかった。
「ろいさん、お水……」
「ん、良いよ」
「違う…ボトルくださ、……っんむ、」
ボトルのまま貰おうと手を伸ばすが、その手を掴まれるとロイさんは再び自身の口に含んだ。
慌てて否定の言葉を口にするがそれには答えず顎を掬うと唇を重ねてきた。
何度もするのは抵抗があって口を閉ざしていると、飲ませながらあちこちに触れてくる。
「ん、ふぅ……っ、」
腰を掴まれると条件反射のようにビクンと身体が震えた。
「も、やめてください!」
「ごめんごめん、もうしないよ」
真っ赤になって眉根を下げるとクスクスと笑われた。
「今日は仕事休んで良いから」
仕事休んで良いから……?
「え……、え?!」
そこで初めて時計を見るととっくに日付は変わって夕方になっている。
朝かと思っていたが夕方だったらしい。思った以上に寝入っていたようだ。まさか半日眠り込むとは思わなかった。
そうか、だからロイさんちゃんと起きてたのか。
ロイさんは完全なる夜型で朝はすこぶる寝起きが悪い。
二度寝三度寝は当たり前で夕方になってようやく起きるような人だ。
そんな人がばっちり起きているのだからもっと早く疑問に思うべきだった。
呆然と時計を見つめるアツシにロイさんは肩をすくめる。
「このまま寝てて。帰りたかったら帰っても構わないけど、今動けないでしょ?」
「……う、」
図星を突かれ何も言えない。
多分だが、今動こうとしたら腰が抜ける気がする。
というかなんでこの人はケロッとしているんだ。
普通もう少し何か気まずい雰囲気になったりしないのか。
いや、そもそも最初からこの人の考えていることは分からない。
「あ、アッシュ君お腹空いてるなら適当に冷蔵庫の食べていいよ」
上着を着ながらロイさんが振り返る。
彼はあまり食事に頓着しない。というか、恐らくこの人は食べること自体が嫌いなのだ
この人の食べているところを見たことがあるが、仕方なく食べている感が凄い。
普通の生活ではあり得ないことだ。何だかそこにロイさんの負の面を見た気がする。
勝手に食べろとは言われたものの、昨日のこともあり疲れ切っている。
結局食べれないと判断してアツシは首を横に振った。
「そ?じゃあ、帰るなら鍵は下のコンシェルジュに渡してね」
それだけ言い終えるとロイさんはさっさと出勤していく。
もう何が何だかわからない。
あと腰やらなんやらが痛い。
結構寝ているはずだが、疲れているからかまた眠気が襲ってくる。
うとうとしてきてアツシは抗えずに目を閉じた。
次に目を覚ましたときにはすっかり辺りは暗くなっていた。
とはいえ、お店が終わるにはまだまだかかる。
アツシは身体の状態を確認し、ちゃんと動けることを確かめた。
少しだるいが違和感はだいぶ和らいでいる。これなら歩けそうだ。少しふらつくが家までならば問題ない。アツシは家に帰ることにした。
ロイさんはすぐに手を出してくるのであまりここにばかり長居するのは良くない。
それに、ここにばかりいるとユキオ達が家へ来た時に言い訳出来ない。また揉めるのは嫌だった。
――この肩のも隠さないとな。
ヒリつくような痛みを訴える肩にはロイさんがしてくれたガーゼが貼ってある。
どのくらいで治るのかは分からないが、全力で見せないよう努力しなくては。
またヒート紛いのことをさせられたのでは堪らない。
「……だるい」
それよりも気になるのは――
アツシはそっと服の上から自身の胸元に触れた。
何だか起きた時からひりつくような痛みを感じるのだ。
何だろう。
胸元のボタンをいくつか外してみるといつもは殆ど主張しないはずの乳首が赤く膨れ上がっていた。
真っ赤になって形もやや変わっている。乳腺の部分だけ僅かにへこんで他が膨らんでいるからか、やたらいやらしく映った。
「これ、絶対……絶対ロイさんがあんなに弄るから……!!」
思わず腕で隠すとジンとした痛みが走る。
「……っん、」
一度意識してしまうともうダメで、さっきまで着ていた筈のシャツが痛い。
「ど、どうしよう……」
何かで押さえていれば痛くない。実際、腕で押さえている分には痛くなかった。
何か貼れる物、貼れる物……そう考えながら辺りを見渡すとベッドの向こう側に救急セットが置いてあるのが見えた。恐らく肩の傷を処置してくれた時に使ったものだろう。
この際恥ずかしがってる場合ではないのでガーゼか何か借りようと立ち上がる。
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