43 / 106

第43話

ロイさんは時折、そうして何処か遠くを見つめている時がある。 そういう時は大抵、いつも浮かべている笑みは形を潜めて怖いくらい無表情だ。 ユキオもそうだが、美形というのは無表情だととても冷たい印象を受ける。 初めてみた時は何を考えているのか分からなくて怖かった。 今も相変わらず何を考えているのかは分からないが、あの時感じた怖さは感じない。 ただやはり調子が狂うというか、いつも通りでいて欲しいと思ってしまう。 だからだろうか。 こうしてコーヒーを入れて欲しいと言われると断れないのは。 ロイさんの様子を気配で感じつつ、抽出が終わった物を最後にもう一度混ぜる。 出来上がったものをカップに移すとロイさんに差し出した。 「どうぞ」 「ん、ありがとう」 受け取ったロイさんはカチャリと小さく食器音を立てただけで、あとは静かにコーヒーを飲んでいる。 さっきまでのぼーっとした様子はやや残っているものの、朝一番に見たあの子供っぽさは消え失せている。 ――なんか、こんなにギャップのある人だとは思ってなかったなぁ。 アツシの中でのロイさんは意地悪で割と自分勝手だ。 自分のしたいように自由にするところはある意味子供っぽいとも言える。 ということはあまりギャップでもないのか? なんてひとの顔を見ながらつらつらと考えているとコーヒーを飲むロイさんと目があった。 「なーんか熱烈な視線を感じるから」 「……すみません」 「別に嫌だなんて言ってないけど?それよりパン焼いて」 お腹空いた、何て言いつつ新聞を読もうとしている。 自由な人なのは再認識したばかりだが……。 「あの、本当に俺は何で呼ばれたんですか?」 「…………知らない。良いからパン焼いて」 「えぇ……」 何故かムスッとした顔で視線を逸らされる。 ここで機嫌が悪くなる意味が分からない。 かと言ってアツシの性格上、それに対して強く突っ込むこともできない。 結局その日は本当にコーヒーを淹れてパンを焼かされただけで終わってしまった。 その後帰ってきたアツシは家の前で大きなため息をついた。 「なんか疲れた……」 結局本当になぜ呼ばれたのかは分からなかった。 単にコーヒーを入れさせようとしたのかもしれないし、なにか理由があったのかも分からない。 どちらにせよ今回は言う気がなかったらしい。 まぁ、ロイさんが自分勝手なのは今に始まった事じゃないのだからもう良いだろう。 あっさり考えることを辞めたアツシは鍵を開けようとして手を止めた。 つらつらと考え事をしていたので気づかなかったが既に開いているようだ。 タイガかユキオが来てるのかな? 鍵を持っているのなんてその二人かロイさんしかいない。 ちなみに2人にはアツシが自分からあげたのだが、ロイさんに至ってはいつの間にか勝手に作られていた。 最近は呼び出しの方が圧倒的に多いのでそれを使ってまで入ってくるのはごく稀だが。 ケータイを確認するが特に何も来ていない。 タイガならば必ず事前に何かしら寄越すので居るとしたらユキオの方だろう。 玄関を開けて入ると案の定ユキオの靴があった。 「やっぱり来てるなぁ」 特に不思議なことではなかったが、いつもなら揃えられているはずの靴がバラバラで何となく違和感を覚えた。 「ユキオー?」 リビングを確認するが人の気配がしない。 部屋の方にいるのだろうか。 アツシの家はしょっちゅう二人が遊びにくるので自室の他にユキオとタイガが泊まる用の部屋がある。 ふた部屋も用意できないのでいつもそこに雑魚寝してもらうのだが、そっちにいるのだろうか。 「……?」 部屋の方へと足を進めると何かカタン、と音がした気がしてアツシは歩みを止めた。アツシの部屋の方だ。 どうやらユキオはアツシの部屋にいるらしい。 「ユキオ?」 ユキオはやはりアツシの部屋にいた。 ぼーっとしたまま、アツシのベッドに腰掛けている。 何だか様子がおかしい。 「……おかえり」 「ただいま。今日は一人?タイガは?」 「……」 タイガの名前を出した途端に表情が揺らぐ。ほんの少しの変化だが、ユキオが小さい頃から見てきたのでアツシにはすぐに分かった。 やはり何かあったらしい。 心配になってアツシはユキオの隣に腰掛けた。 ユキオは下を向いたままこちらを見ようとしない。 「喧嘩でもした?」 「別に」 「……そっか」 大抵ユキオは何かあった時には聞いても答えない。 それでもつい聞いてしまうのは最早癖に近い。 ふと手を見れば普段から白い手が握りしめたせいで更に白くなっている。 何だか寒そうだ。 「なにか飲み物でも……」 用意しようか、と言いかけて立ち上がると座ったままのユキオに腕を掴まれた。 「ねぇ…………なんでアツシは番作りたくないの」

ともだちにシェアしよう!